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時代を映す辞書

 記事を書くのがなりわいであるのに昨今、辞書を引くことがめっきり少なくなった。簡単な調べものや確認ならばインターネット検索で事足りるからだ▼辞書市場は近年、電子辞書やネットに押されて縮小気味という。申し訳ない気がするとはいえ、メールやブログの普及で文章を読み書きする機会が増え、辞書の重要性は高まっている▼言葉は生きものゆえに優れた辞書も時代遅れになる。小学館が言葉の揺れを逆手に取り、4年前から毎年、辞書に載せる言葉の今日的なイメージを公募。今月から「大辞泉」デジタル版などに新たに79点を採録する▼「情報」とは<振り回されてもしがみついてしまうもの>。情報過多のネット時代らしい。「癒やし」は<疲れた心の特効薬>と言い得て妙。「昭和」は<時代遅れの物事を揶揄(やゆ)する言葉>にかちんと来る昭和育ちは多いのでは▼言葉は常に時代の変化や世相を映す。学校用地を巡る騒動でにわかに注目された「忖度(そんたく)」にどんな新語釈が加わるのだろうか▼<辞書は、言葉の海を渡る舟だ>と辞書づくりに没頭する編集者の姿を描いた三浦しをんさんの小説「舟を編む」にある。春は入学や進学、就職と門出の季節だ。電子辞書も便利だが、分厚い辞書のページを繰って、人生の羅針盤となる言葉を見つけたい。

[京都新聞 2017年04月04日掲載]

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