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世界禁煙デー

 〈きかぬものたばこの法度銭法度、玉のみこゑにげんたくの医者〉。江戸時代初期、幕府は喫煙による失火やたばこ栽培が田畑を荒らすことなどを懸念し、何度もたばこの禁令を出した。ところが、効果は薄く、こんな落首が流行したとか。きょうは「世界禁煙デー」。禁煙の難しさはいつの時代も同じだ▼ピーク時の半分とはいえ、今も年間1700億本が販売される紙巻きたばこを日本に定着させたのは、「明治のたばこ王」と呼ばれた京都の村井吉兵衛だ▼1900年、東山区に1日1千万本を製造する工場を建設、「ヒーロー」という銘柄を大ヒットさせた。派手な宣伝でも名をはせたが、わずか4年後、政府が日露戦争の戦費調達を狙いに専売化、事業から撤退した▼それから1世紀。たばこが政治に左右される状況は変わらないようだ。受動喫煙対策を強化する健康増進法改正で、飲食店の原則禁煙を打ち出す厚生労働省案に自民党が「厳しすぎる」と反対している▼だが、受動喫煙による死者は年間1万5千人、医療費は3200億円となれば、「吸わされない権利」を尊重するのは当然だろう▼〈煙草は、悪魔がどこからか持つて来たのださうである〉。冒頭の落首を紹介する芥川龍之介の短編「煙草と悪魔」の一節だ。悪魔に負けてはなるまい。

[京都新聞 2017年05月31日掲載]

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