凡語 京都新聞トップへ

快挙の意味

 歴史的快挙の一報を伝える記者の声が上ずっていた。「9秒98です。9秒98」。福井市であった陸上の日本学生対校選手権で桐生祥秀選手(21)が日本人初の9秒台を記録した男子100メートル。カメラマンは小躍りする姿をレンズで追った▼国際陸上競技連盟によると、「10秒の壁」を破ったのは126人目。9月9日に9秒台とは記憶に残りやすい▼洛南高3年で打ち立てた自己記録を0秒03更新するのに4年4カ月の歳月を要した。長く足踏みしたように映るが、タフな選手になるために自分と格闘した濃密な時間だった▼6月の日本選手権で4位に沈みながらミックスゾーンで記者に丁寧に対応していた様子を本欄で紹介した。悔しさをかみ殺して話す姿は力を蓄えているようだった。試練と向き合うたびにアスリートは強くなる▼伝説を生んだ一方、競争時代の幕を自ら開けたことになる。前人未到だった記録の壁が一度破られると、次々と好記録が飛び出すことは珍しくない。先を越されたライバルたちは燃えている▼東京五輪での決勝進出、400メートルリレーの金メダル。ずっと遠くに見えていた世界の背中が手を伸ばせば届く距離に迫っている。今回の9秒台が他のランナーにどれほど大きな自信と勇気を与えるだろう。快挙の本当の意味はそこにある。

[京都新聞 2017年09月23日掲載]

バックナンバー


凡語 書き写し
 
著作権は京都新聞社に帰属します。
ネットワーク上の著作権について(日本新聞協会)