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疏水の先見性

 京で権勢を誇った平清盛や豊臣秀吉が思い描きながらも着手できなかった都の改造プロジェクトがある。琵琶湖と水運で結ぶことだった▼京都市は、独自制定の京都遺産として「明治の近代化への歩み」など3件を新たに選んだ。なかでも最大規模の事業が、国内屈指の難工事の末、1890(明治23)年に開通した琵琶湖疏水だろう▼用水確保と水上運輸をめざした当初の構想に、「発電」という目的はなかった。土木責任者の田辺朔郎は工事中、米国の鉱山で水力発電という先端技術が実用化された報に接する。急きょ訪米して目の当たりにした技術を府知事らに掛け合って疏水事業へ導入するよう進言した▼日本初の事業用発電所から生み出されたエネルギーは、路面電車の運行や工場操業、電灯の普及など経済や市民生活に寄与する。京都再生の決定打となった▼田辺には土木専門家の枠にとどまらない、都市計画の大プランナーとしての広い視野と鋭敏なセンスがあったのだろう▼今春には定期通船が運航し、土木遺産巡りや発電所の学会は人気を呼ぶ。新たな観光スポットとして訪日客らの注目も集めるようになった。緑が葉影を落とす流れのそばに立つ田辺の銅像を見上げながら、百年先を見通した先人の先見性と進取の気風へと思いを巡らせたい。

[京都新聞 2018年05月28日掲載]

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