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「第九」初演100年

 「第九」の名で親しまれるベートーベンの交響曲第9番全曲を日本で初演したのは、1918年6月1日、徳島県鳴門市にあった板東俘虜(ふりょ)収容所のドイツ人捕虜だった。100周年に当たる今月1日、収容所跡地近くで当時を再現した演奏会が開かれた▼第1次世界大戦中、日本は中国・青島のドイツ軍を攻撃した。5千人の捕虜が全国で収容されたが、板東では新聞発行や活発な文化活動が許された▼異国で聴いた第九の調べに捕虜たちはどれほど強く平和を願ったことだろう。一人は本国の母親にはがきを送り「何とも言えない安らぎ、慰めが流れ出てくる」と記した▼「あなた(歓喜)の魔力は再び結びつける 時流が厳しく分け隔てたものを すべての人間は兄弟となる あなたの柔らかな翼のとどまるところでは」。シラーの詩に基づく「歓喜の歌」。平等、友愛、希望…歌い手のさまざまな思いが込められる▼日本では年末の風物詩だが、世界では東欧革命、ベルリンの壁崩壊など政治的な局面で歌われた。五輪ではかつて東西ドイツの共通国歌に使われ、欧州連合の歌(歌詞なし)でもある▼初の米朝首脳会談が近づく。朝鮮半島非核化の行方は予断を許さないが、南北分断の解消や地球規模の核廃絶につながるなら、歓喜の歌が世界に響くだろう。

[京都新聞 2018年06月10日掲載]

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