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キツネとダチョウ

 キツネは疑い深い。凍った川を渡る時でも、氷の下のかすかな水音に耳を澄ませる。この用心深さが実は武道的には「最も弱い」状態であると、合気道の道場を主宰する思想家の内田樹さんが書いている▼警戒心を最大化させ、何が起きるのかを待つ構えは、外からのわずかな変化にも敏感に反応する。だから、技をかける側は望むところに導き、望むような姿勢をとらせることができると▼自民党総裁選への立候補を慎重に探っていた岸田文雄氏が不出馬を決めた。ここで戦うべきか、それとも安倍晋三総裁からの禅譲を期待したほうがよいか。用心深さに潜む「弱さ」は、安倍氏には織り込み済みだったようだ▼名門派閥・宏池会を率い、早くから「ポスト安倍」とされてきた。だが総裁選で負ければ仲間に冷や飯を食わせることになる。そんな迷いが周囲の目にもありありと映っていた▼岸田氏撤退で、総裁選は早くも安倍氏優位の情勢だという。安倍氏の望むところに導いたということではないか▼弱い状態に陥るのを避けるには、危険に直面した時に砂の中に頭を突っ込むダチョウのように、どんな仕掛けにも反応しない戦略がある、と内田さんは記す。疑惑追及に馬耳東風で臨んだのは、それを知ってのことか。ダチョウは時に、キツネよりずる賢い。

[京都新聞 2018年07月27日掲載]

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