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発想の転換

 95歳の評論家外山滋比古さんは、中年の頃からよく物忘れをした。講演や会合をすっぽかす。結婚式に招かれ京都に来たが1カ月早かった…▼この体験から、忘却は人間の必須の能力ではと思い至る。記憶のいい人は年をとると頭がいっぱいになり働かなくなる。どんどん忘れて新しいものを生み出すのがいい、と(「忘れるが勝ち!」)▼加齢による能力の衰えをどう受け止めるか。認めていても躊躇(ちゅうちょ)するのが運転免許の返納だろう。内閣府の調査によると、80歳以上の4人に1人が車を運転している。自治体はバスやタクシーの割引などで返納者を支援するが、地方の市町村ほど買い物や通院に「不便」との声は根強い▼こんな言葉を思い出した。不便だからこそいいことがある―。京都大教授の川上浩司さんが提唱する「不便益」である▼見過ごしがちな不便さに「暮らしを豊かにするヒントがある」ともの作りの現場などへの応用を探る。その効用は能力低下を防ぐ、発見できる、工夫できるなど。不便だとより手足を動かし、頭をひねらなければならない▼<家族に乗せてもらうことは絆づくりの一助になる>。免許を返納した80歳の女性は、本紙「こまど」欄にこう寄せた。発想を転換し、助けられ上手になる。変化を楽しむのも不便益かもしれない。

[京都新聞 2019年06月17日掲載]

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