凡語 京都新聞トップへ

えんとこの歌

 その人は寝たきりになって35年になる。24時間体制の介助で食事や排せつを行い、語らい、命や恋の歌を詠む。<手も足も動かぬ身にていまさらに何をせむとや恋の告白>▼遠藤滋さん。72歳。1歳で脳性まひと診断された。大学を出て教員になったが障害が進み、立てなくなった。発声も困難な今は介助者が口元に耳を寄せて声を聞き取り、パソコンに打ち込む。その日常を記録した「えんとこの歌」が京都シネマで公開中だ▼えんとこは遠藤さんの居所、縁のある所を指す。これまで介助に集ったのは2千人以上。全てをさらけ出す姿に接し若者はつぶやく。「ここにいると自由になる、自分がポロポロ出てきちゃって…」「寄り添うというより、寄り合うって感じ」。映画は彼らの変化も映す▼監督は大学時代からの友人伊勢真一さん。20年前にもえんとこの映画を撮った。再びカメラを向けた理由は2016年の事件。相模原市の障害者施設で19人が元職員に殺された▼以来遠藤さんも歌に詠み続ける。<己こそ弾(はじ)かるる怖(おそ)れ感じてやより弱きらを斬りて見せたる>。そしてこう問う。優生思想と言うのはたやすい。だが対抗しうる拠点はあるのかと▼伊勢さんは訴える。「思考停止にならず、僕たち皆が考えないと。遠藤がベッドの上でしているように」

[京都新聞 2019年08月20日掲載]

バックナンバー


凡語 書き写し
 
著作権は京都新聞社に帰属します。
ネットワーク上の著作権について(日本新聞協会)