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犯罪とクルーザー

 クルーザーが「お金持ち」の象徴のようになったのは、いつからだろう。日本人にとって印象深かったのは、1960年の映画「太陽がいっぱい」かもしれない▼大富豪の息子になりすまして完全犯罪をもくろむ青年をアラン・ドロンが演じた。息子の恋人の名前がついたクルーザー(ヨット)は重要な舞台だった▼前日産会長のゴーン被告が追起訴された。会社の資金を流用し、その一部で約16億円のクルーザーを買ったといわれる。捜査は区切りを迎えたようだ▼クルーザーの持ち主は船に愛する人の名前をつけることが多い―。そんな話を聞いたことがある。映画もそうだったが、ゴーン被告の場合は「社長号」。日産への愛を表しているのか、社長という職そのものへの思いなのか▼ゴーン被告は容疑を全面的に否認し「今起きていることは陰謀」と言っている。司法取引に基づいた検察の一連の捜査は、手法などを巡って大きな批判も招いた。公判でも激しい攻防になりそうだ▼「太陽がいっぱい」の鮮烈なラストを思い出す方も多いだろう。青年の野望は、まるでクルーザーに絡め取られたように打ち砕かれる。だがハイスミスによる原作はまったく逆の結末だ。世界が注目する事件で最後に打ち砕かれるのは…。どちらでも国民の怒りはいっぱいか。

[京都新聞 2019年04月24日掲載]

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