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なりすまし

 意味が分からなかった人も多いのではないか。「地面師」が久々にニュースに登場した。広辞苑には「自分に所有権のない土地を勝手に売り飛ばす詐欺師」と説明がある▼地面師の一団が積水ハウスに架空の土地取引を持ちかけ55億円をだまし取ったとされる。偽造パスポートや印鑑証明書などで地主や関係者に成りすましていた▼ノンフィクション作家の森功さんは2016年の週刊誌で、不動産のプロも被害に遭う類似事件の増加を報じている。今回も業界大手が手玉に取られた。驚きだが地面師もよほど巧妙だったのだろう▼ところで、こちらの成りすましは、巧妙どころか、あからさまだ。沖縄県が名護市辺野古の海の埋め立て承認を撤回したことに対する国の対抗措置である▼国は行政不服審査法に基づく審査と撤回の効力停止を申し立てた。15年の県による埋め立て承認取り消しでも国は同じ手を使い、90人超の行政法研究者から連名で「国が私人に成りすました」と批判を受けた▼同法は、国民の異議申し立ての権利を保障しているが、基地建設は個人でできるものではない。今回の国の申請は、明らかに制度の乱用だ。安倍晋三政権は事あるごとに「日本は法治国家」と繰り返すが、私人に成りすます手法が、その言葉にふさわしいとは思えない。

[京都新聞 2018年10月19日掲載]

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