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女優・作家 中江有里さん

職人の技が残る土壌
 自分が経験したこと、見たことを、言葉に置き換えていく。それが作家としての喜びであり、難しさでもあると語る中江さん。「京都を色に例えると」と尋ねると、「言葉にするのも難しいのに、色で表現するなんて…」と考え込む表情になった。
 慎重に言葉を選びながらの答えは「れんが色」。「街全体の印象から、落ち着いた暖色系。でも茶色だと少しおとなしすぎますね」。歴史と文化が積み重なり、日本の土台にもなっているというイメージが、れんがに重なったという。
「山本兼一さんの小説『千両花嫁』にように、京都の名もない庶民を主役にした作品が好きですね」(京都市上京区・京都御苑)
「山本兼一さんの小説『千両花嫁』にように、京都の名もない庶民を主役にした作品が好きですね」(京都市上京区・京都御苑)
 10代で芸能界に入った中江有里さん(41)は、仕事でたびたび京都を訪れている。
 「大阪で育ったので、京都には遠足でしょっちゅう来ていましたし、15歳で上京してからもテレビドラマや広告、時代劇の仕事で何度も訪れました。ただ、風景としては覚えていても、そこに内在する文化にまで目を向ける余裕はありませんでした。19歳の時、2カ月ほど京都に滞在したことがあります。川端康成の『古都』のドラマ化で、主人公の双子を一人二役で演じたんです。その時は全く休みがなくて、みんなが食事をしている時に衣装を変えたり、もちろん芝居も切り替えないといけなくて。心身ともに疲れてしまいました。

 だから一昨年、ある雑誌で文学の舞台を訪ねる連載を始めたとき、初回に『古都』を取り上げることにしました。ゆっくり回って、あのときの自分を振り返るというか。それから、何度か訪れるうちに京都の印象が変わってきたんです」

ゆっくり回って印象変わった

「古都」の撮影で、清水寺周辺もたびたび訪れた。「京都の四季を描いた作品ですが、撮影は真冬。とても寒かったことを覚えています」(東山区・二年坂)
「古都」の撮影で、清水寺周辺もたびたび訪れた。「京都の四季を描いた作品ですが、撮影は真冬。とても寒かったことを覚えています」(東山区・二年坂)
 最近、伝統的なものづくりに携わる職人たちにひかれ、自ら取材している。
 「京都の人って、よそ者に対して少しクールというか、冷たいって言われることがありますよね。実際私も、冷たいと感じたことがありました。職人の方に取材すると、とっつきにくいというか、ウエルカムではないんです。ただ、お話を聞くうちに理由が分かってきました。

  京都の職人さんは日本の商業の反対を行くというか、売れるものをたくさん作るっていう発想がない。良いものを作るのが大前提で、自分が作れる分だけ作る。 『何でも売らんかな』の考えよりも、必要としてくれる人にしっかり買ってもらいたい。だから、お店を見ても、商品がそんなにたくさん並んでいなかったりし ますよね。これが東京だったら、全種類並べると思います。これだけありますよって。

 相撲の関取が使う『明荷(あけに)』(行李(こう り))を作っている職人さんは京都にしかいない。京都場所がある訳でもないのにどうしてって、不思議だったのですが、かつては各地にあったのが京都にだけ 残ったということなんですね。派手さはなくても残る土壌が京都にはあるんだと思います。

 先日訪ねた草履を作っているお店は、創業してからずっと右肩下がりだと言っていました。それでも、必要とするお客さんがちゃんと付いていて、お母さんの履いていた草履を直して娘さんが履いていたりする。京都の強さではないでしょうか」

 無類の本好き。読書と旅は似ているという。
  「今、読書を楽しみにする人が少数派になっている気がします。フェイスブックやツイッターで、活字を読んだり書いたりする人は増えているかもしれません が、それでは自分の好みと同じ意見にしか触れられません。端的な『答え』だけを求める傾向も強いと思います。読書は、過程や流れが大事だと思うんです。自 分にとって『ハズレ』と思うことはあるかもしれないけれど、だからこそ『アタリ』も分かる。後々になって『ハズレ』じゃなかったことに気づくこともある。

  旅も同じですよね。私も『旅のしおり』とか作って、行きたい所を前もって調べてまとめるのが好きなんですが、やり過ぎると面白くない。ガイドブックに載っ ている場所を踏破しても、それは旅ではない。時に『ハズレ』があっても、意外な出会いがあってこそ面白いのではないでしょうか」

なかえ・ゆり

「どこにたどり着くのか分からないのが小説の魅力。旅も同じ。訪れた先々で、次の行き先を考えずに、その場所を味わうことが楽しい」
「どこにたどり着くのか分からないのが小説の魅力。旅も同じ。訪れた先々で、次の行き先を考えずに、その場所を味わうことが楽しい」
 1973年大阪府生まれ。89年芸能界デビュー。数多くのテレビドラマ、映画に出演。2002年に「納豆ウドン」でBKラジオドラマ脚本懸賞最高賞を受賞。小説や書評も手がける。作品に「ティンホイッスル」「ホンのひととき 終わらない読書」など。

【2015年03月07日掲載】