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第十五景 銭湯の原点

たっぷりのお湯に満足感

 前回までに、滋賀県内の銭湯を一軒ずつ紹介してきた。改めて取材という形でまわらせてもらったことで、新しく知った事実もたくさんあった。

 江戸時代の文化文政期に生まれた創業者から、代々銭湯を家業として継いでいる小町湯(大津市)の歴史もそのひとつ。全国的に見ても、小町湯が銭湯として屈指の歴史を持っていることは間違いない。

 歴史では、彦根キリスト教会の創設に関わった元渡世人が、経営していた遊郭を廃業し、失業者に職を与えるために湯屋を開業したという山の湯(彦根市)の創業秘話も印象深かった。

脱衣所のソファで眠るモコちゃん(東近江市八日市本町・延命湯)
脱衣所のソファで眠るモコちゃん(東近江市八日市本町・延命湯)

 また、町の銭湯は、経営者の趣味趣向が店づくりに反映されている面白さも改めて感じた。

 趣味人だった先代が瀬田川の石を使って作ったさくら湯(草津市)の岩風呂や、福井湯(大津市)のロビーに飾られているご主人お手製のわら細工の宝船などは、まさにその好例。福助湯(東近江市)や延命湯(同)のように、家族の一員として飼われている愛猫や愛犬に会えるのも町の銭湯ならではだ。

 そういう楽しさを感じた一方で、経営の大変さを、話の端々に感じたのも事実。設備の老朽化や跡継ぎ問題、入浴客の減少といった問題は今後も避けては通れない。

フロントで接客する湊さん(大津市馬場3丁目・都湯)
フロントで接客する湊さん(大津市馬場3丁目・都湯)

 そのような中で、20代の湊雄祐さんが、休業していた都湯(大津市)を借り受けて再開させたことは、銭湯の未来に一筋の希望を感じさせてくれる。

 こういう連載をすると、「どこの銭湯が一番よかったですか?」と質問されることがあるが、その質問には「どこもよかった」と答えることにしている。

 しかし「どこに行ってほしいですか?」と聞かれたなら、今回に限っては、連載1回目に取り上げた清水湯(甲賀市)と答える。

地下水をおがくずで沸かした湯が気持ちいい(甲賀市水口町本町・清水湯)
地下水をおがくずで沸かした湯が気持ちいい(甲賀市水口町本町・清水湯)

 浴槽はひとつだけ。ジェットなどの仕掛けはなにもなく、深い浴槽におがくずで沸かしたお湯がたっぷりと満たされているだけなのだが、ほかでは得られない満足感がある。銭湯の原点を感じられるお風呂とでもいえばよいか。銭湯の良しあしが、設備の種類ではないことを五感で感じさせてくれる。

 もちろん、いろんな設備を用意してお客さんを楽しませている銭湯を否定しているわけではない。多様な銭湯があり、利用者それぞれに好きな銭湯があるという状態が理想で、豊かなことだと思う。

 これからも、多様な銭湯が残っていきますようにと願うばかりだ。

林宏樹(はやし・ひろき)

林宏樹さん

 フリーライター、銭湯コラムニスト。1969年京都市生まれ。東京で見かけた富士山のペンキ絵が地元にはないのかという疑問から、京都府、滋賀県の現存する銭湯すべてに入浴。著書に「京都極楽銭湯案内」「京都極楽銭湯読本」(淡交社)など。

【2019年01月28日掲載】