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第九景 草津の風流

本格的な岩風呂 存在感
岩風呂のある浴室。地下水を沸かしたお湯も売りだ (草津市大路1丁目・さくら湯)
岩風呂のある浴室。地下水を沸かしたお湯も売りだ (草津市大路1丁目・さくら湯)

 JR草津駅から徒歩5分ほど。旧中山道のにぎやかな商店街から少し脇に入ると、3階建てのビルの1階にのれんが掛かっている。

 玄関から引き戸を開けると、番台から「いらっしゃい」と、1922(大正11)年生まれの木村つねさん(96)が声を掛けてくださった。

 「いまは、おばあちゃんにも番台を少し手伝ってもらいながら、私と息子の将之(42)の3人でやってます」と木村みち子さん(69)。創業は、50(昭和25)年。みち子さんの父親の弘さんが始めた銭湯だという。

 浴室に入ると、1番奥に本格的な岩風呂があり、存在感を放っている。趣味人だった弘さんが、観賞用の石の一大産地である瀬田川の虎石や真黒と呼ばれる石を利用して、岩風呂に仕立てたそうだ。なんとも風流ではないか。

3代目にあたる将之さん
3代目にあたる将之さん

 現在も駐車場の脇には、さまざまな銘石やツツジの盆栽が並んでいるが、これも弘さんの遺(のこ)したものだとか。そんな逸話を聞いてから、岩風呂に漬かると、また格別だ。

 いろいろとお話をうかがっていると、ビルになる前は、男女の浴室が逆だったと教えてもらった。

 銭湯は当然ながら、営業中は自分の性別の側にしか入れない。半分は知りえぬ世界なのだが、営業前に取材させてもらうと、両方を見られるという特権がある。

女湯脱衣場。お釜型ドライヤーは現役で活躍中
女湯脱衣場。お釜型ドライヤーは現役で活躍中

 さくら湯さんでも女湯側に入れてもらうと、男湯にはない、赤ちゃん用の寝台や、すっぽりと頭にかぶせるお釜型のドライヤーが脱衣場にあった。赤ちゃんはほとんど来ないとおっしゃっていたが、寝台には座布団が敷かれ、準備万端なのがほほ笑ましい。

 細かい話だが、洗い場の鏡の広告も男女で異なる。さくら湯の女湯には美容室や牛乳販売店の広告が並ぶのに対し、男湯はと言えば……広告が入っていない! 将之さんに聞けば、最近男湯は鏡を新調し、広告なしになったと言う。

 しかし、倉庫の隅に以前の鏡が残っていました! タクシー運転手の募集に飲食店など、女湯にはなかった広告だ。違いが証明でき、胸をなでおろした筆者なのでありました。

さくら湯

草津市大路1丁目16の6
077(562)0445
午後2時~10時営業
日曜定休
駐車場8台

林宏樹(はやし・ひろき)

林宏樹さん

 フリーライター、銭湯コラムニスト。1969年京都市生まれ。東京で見かけた富士山のペンキ絵が地元にはないのかという疑問から、京都府、滋賀県の現存する銭湯すべてに入浴。著書に「京都極楽銭湯案内」「京都極楽銭湯読本」(淡交社)など。

【2018年12月03日掲載】