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美術家 荒川朋子さん

陶器に毛、異質感を“生やす”

「あるべきもの」で「かわいい」

最近まで使っていた、大学近くの元製材所のアトリエ。今は故郷京丹波に拠点を移した(京都市右京区嵯峨)
最近まで使っていた、大学近くの元製材所のアトリエ。今は故郷京丹波に拠点を移した(京都市右京区嵯峨)

 げっ! 毛が生えている。白い壺(つぼ)にびっしり。自然に生えたわけではなさそうだ。見れば見るほど不気味にユーモラスに、奇っ怪な生き物、のどかな風景にも見えてくる。タイトルもストレートに「毛の生えた壺」だ。それにしても、このゾクッとするような、なんだか気恥ずかしいような気分はなんだろうか。

木彫に毛を“生やす”作品の多い荒川朋子は昨年、滋賀・信楽の芸術祭に出品するため、県立陶芸の森アーティスト・イン・レジデンス・プログラムに参加。陶芸へと領域を広げた。その成果が今月の個展(15日に終了)で発表した、この壺だ。表面に小さな穴を開けて焼き、つけまつげを一つ一つの穴に埋め込んだ。毛を植える作業は「しんどいし、気持ち悪くなる」。それでも「生やさずにいられないんです」。

 人や手、足の形をしたものに毛を貼り付けるだけで、なにやら原始宗教的、民俗的な雰囲気を帯びるから不思議だ。毛は古来、人間の分身や形見であり、呪術、信仰、大人の象徴のにおいがするからだろうか。「民博(国立民族学博物館)は好きで、そういう要素はあるかも。でも、意外と毛に執着があるわけではない。ただ、ものづくりをしたいだけなんです」。この壺は個展後、美術家村上隆のコレクションに加わった。3月11日に青森・十和田市現代美術館で始まる「村上隆のスーパーフラット現代陶芸考」で披露される。

「毛の生えた壺」
「毛の生えた壺」

 「毛」との出合いのきっかけは、大学の卒業制作展。「おまた」という、丸みのある木の塊から足が生えた作品を出した。「自画像」という題名。でも、なんだかしっくりこない。展覧会の後、自分の髪の毛を木に植えてみた。「安心した。あるべきものがあるべき所にあって。『自画(刻)像』ですから。毛が生えているのはかわいい。ぬいぐるみとか、モコモコしたものが好きなんです」

 「木彫ヘア」作品の多くはクスノキやクリの木を彫刻し、カシュー(塗料)を施し磨き上げる。人毛や付け毛、ウイッグ(かつら)を使う。美しい光沢のマチエールと毛のアンバランスさ、違和感が鑑賞者の生理を刺激する。「最初のころ、おじいさんに『けがらわしい』と言われました。最近はそういう人は来なくなりました」。全身毛に覆われた人型の木彫、爪先に毛が生えた指、毛ガニなど、シンプルだけどインパクトのある作品を生み出してきた。

 

「毛蟹(けがに)」 2016年
「毛蟹(けがに)」 2016年

京都府京丹波町出身。父はガラス工房を営む。父の姿を見て、「ずっと、ものを作る人になると思っていた」。京都嵯峨芸術大に入学し、彫刻分野に進んだ。しかし、コンセプトを重視する「アート」になじめなかった。大学の野外展で、「コンセプトについて深刻に悩んで出した作品を、みなさんが普通に笑ってくれた。それから、あんましコンセプトは考えないようになった」。頭の中に形があふれ出る。直感的に浮かんだイメージに、より完璧に近づくよう制作している。「“かわいい”を目指して作ってます。出来上がって気持ち悪いとか、微妙なこともある。気がついたら、父の仕事とは全然違う所に来ているぞ、と思いますけど」と笑った。

あらかわ・ともこ

 1988年、京丹波町生まれ。京都嵯峨芸術大芸術学部造形学科彫刻分野中退。2013年、KUNST ARZT(クンスト・アルツト=東山区)で初個展。以来、毎年1月に同画廊で個展を開催する。12年府美術工芸新鋭展(京都文化博物館)、16年信楽まちなか芸術祭に参加。京丹波町在住。

【2017年01月28日掲載】