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美術家 新宅加奈子さん

個を解放、時間感覚なき一瞬

色をまとい生きていること確かめる

通称「鴨川デルタ」は学生時代の思い出の地。「趣味のサックスを吹いたり、友達とだべったり。考えを整理したい時にここに来た」という新宅加奈子(京都市左京区)
通称「鴨川デルタ」は学生時代の思い出の地。「趣味のサックスを吹いたり、友達とだべったり。考えを整理したい時にここに来た」という新宅加奈子(京都市左京区)
全身極彩色の人が椅子に腰掛けていた。ギャラリーの中だ。頭からかぶった絵の具が滴っている。髪の毛から肩口、背中から腰、足の先まで。鮮烈な色が身体の起伏を伝って床に落ちる。毛髪はごわつき、ぬらぬらと光沢のある色彩が皮膚の上で混じり合う。一部は硬化して乾いた大地のようにひび割れている。足元にまざまな色が堆積していた。
 新宅加奈子は個展の会期中、絵の具を浴び続けた。パフォーマンス中はトランス状態になっているという。「一言で言えば、時間感覚がない。一瞬のように感じるんです」。4時間ずっと動かない。「ひたすら目の前にじわっと広がる色、混じり合う色を見ている」。会場を飾る写真や映像は、そうした行為を自身で撮影した作品だ。いろんな角度でいろんな部分を切り取った写真は、色彩が激しくせめぎ合う抽象画のよう。身体はキャンバスに、塗料はメディアになる。身体の内側に抑えていた色彩が、爆発的に噴き出したのかもしれない。

 初めて絵の具を浴びたのは、高校生の時。家庭内で悩みを抱えていた。「生きているのかいないのか、あいまいだった。身体と精神が離別していた。絵の具をまとった時、不確実な何かになった気がした。だから、生きていること、今ここにいることを確かめる行為です」。自傷行為にも似ているが、自らを引き出すアートだ。生と死のぼやけた境界は、身体と社会の関係性を表象する。「今の社会は精神的、肉体的負荷が大きくて、肩書きとか性別とかに固着して何か別のものになってしまっている」

新宅加奈子「I'mstillalive」 2019年 
新宅加奈子 「 I'mstillalive」 2019年

 撮影は三原色と白色を使う。「色は互いに影響したり、されたり、混じり合ってどんどん色が増える。主観と客観があり、人間とも重なる」。塗料に片栗粉を入れると、いい具合のひびができる。体温によって数時間で表面は固まり、ぼろぼろと崩れる。外と内のはざまにできた新たな層は、生をかたどる輪郭でもある。

 新しい展開として、水性樹脂で肩や腕など身体の一部をかたどった彫刻的作品へ派生している。「トランス状態の痕跡を瞬間的に切り取りたい」。皮膚は「けがをしても治癒し、修復する反面、傷やあざの跡を誇示する。表面に時間を残す記憶媒体みたい」。刻一刻更新される身体の時間と記憶を造形につなぎとめる。

 大学卒業後も京都の共同生活型アートホテルで制作を続ける。京都は学生や観光客が多い。「流動性の高いコミュニティーが自分に合っている。国境を越えたつながりもできる」。今月はソウル、9月は上海でアートフェアなど展示が決まった。「自分の作品は、個から逸脱する。絵の具をかぶれば、国籍も肌の色も年齢も分からなくなる。個がなくなることの自由さを伝えたい」

しんたく・かなこ

 1994年大分県出身。京都造形芸術大修士課程修了。全身に絵の具をまとうパフォーマンスとそのセルフポートレート作品を展示。アクリルガッシュビエンナーレ(東京)優秀賞、アートアワード東京丸の内オーディエンス賞など。京都写真美術館(東山区神宮道三条上ル)で9月17~29日に個展。パフォーマンスを21、22、28、29日に予定。東京にも巡回する。

【2019年07月27日掲載】