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美術家 時吉あきなさん

たどりつけない本物に近づく

手段はスマホ、作って撮られて

お気に入りの「愛犬」を散歩させる時吉あきな(京都市左京区・鴨川)
お気に入りの「愛犬」を散歩させる時吉あきな(京都市左京区・鴨川)

 秋晴れの鴨川畔で、女性が「プードル」を散歩させている。通りすがりの自転車のおじさんが一瞬「えっ」という顔で驚き、年配のおばさんたちは「いやあ、まあ」と話しかけてくる。犬は、写真でできている。スマホのカメラであらゆる角度から撮影、プリントした紙をコラージュし、貼り合わせた立体だ。といっても超絶技巧ではない。つぎはぎのいびつな像だ。ゆがみと曖昧さとイメージでできた犬には、不思議な違和感と奇妙な親密さが同居する。

 この「ほぼ本物」という感覚こそ、時吉あきなのテーマであり、魅力だ。現代社会は、本物らしさで作られている。フェイク、複製、リアル―。ネットの膨大な情報から限りなく本物に近づけるが、どこまで突き詰めても本物にはたどりつかない。手のひらのスマホの平滑な画面に次々と現れるイメージは消費され、コピペされ、増殖していく。時吉の「たどりつけないところに、近づこうとする行為」は、現代の真実っぽさやずれへのまなざしを反映しながら、ユーモアを漂わせている。

「コピードッグホスピタル」 (2018年7月、京都市東山区・KUNSTARZT)
「コピードッグホスピタル」 (2018年7月、京都市東山区・KUNSTARZT)

 大学時代に、自分のコンセプトが「何かを再現しようとしたり、本物に近づこうとしている」ことに気づいた。卒業制作で、一人暮らしの自分のアパートを再現した。スマホで身の回りの品を撮った。即席カップ麺、冷蔵庫、香水、アメリカ産牛肉。それぞれ写真を貼り合わせて原寸大に立体化した。それを人間ではなく、実家で飼っていた犬の目で見た。パース(遠近)はゆがみ、においの強いものを大きく作り込んだ。「犬の視点を通して、今見えているのがすべてではないということがわかった」という。

 面白いのはこれからだ。展示後、作品を捨てるのがもったいないと思った時吉は、「日用品」を一つ一つ車のタイヤでひき、足で踏んで圧縮。紙に貼り付け、まるごと大型スクラップブックにした。「変な3次元が2次元になった。立体にしたのに平面にするんかいって」。薄っぺらになった部屋と日用品は、図らずも現代社会が凝縮されているようだ。

「ワンオール」2017年
「ワンオール」2017年

 昨年、若手クリエイターの登竜門の公募展「1_WALL(ワン・ウォール)」に、「ワン(犬)」「オール(すべて)」に引っかけて「ほぼ犬」だらけの空間を出品し、グランプリに輝いた。さらに京都の個展では「動物病院」を発表し、10人の写真を合体させた理想の顔のマネキンとともに、時吉もナース姿で登場した。

 犬たちはSNSで複製、拡散が繰り返される。「スマホで撮ったものがスマホで撮られて、ネットに載るのが面白い。次は人間にも、挑戦できたら。スマホは一番身近なカメラ。それぐらい軽い気持ちで作っていきたい」

ときよし・あきな

 1994年大阪府生まれ。2016年京都造形芸術大情報デザイン学科卒。第16回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞。インスタレーションで、まるごと異次元に誘い込む作品を制作。11月10~25日、大阪市浪速区のexcubeで個展「ナニワんゴシップ」を開催する。

【2018年10月27日掲載】