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(11)雨が必要な木

先人の知恵 桐のアク抜き
店の屋上で年中「雨打たし」される桐(京都市下京区六条通烏丸東入ルの桐材店)
 先日、梅雨の合間に大原野の材木屋Tさん夫妻に誘われ、ホタルの舞いを見に行った。水かさを増して勢いのある川の暗闇に、緑色の光がフワリと飛び交う幻想的な光景は、この季節の一週間だけしか見られないそうだ。
 ホタルは清き水を好むと言うが、木にも雨水を好むものがある。京都市下京区の桐材店に見られるように、屋根の上に木を並べた工程を「雨打たし」などと呼ぶ。原木から引いた板を桟(さん)木で挟んで間隔をあけて干しておき、雨水を吸わせては、吐かせて乾燥させていく。
 この独特な方法で何年も乾かしていくのは桐の木だ。桐はアクのきつい木で、原木の状態で一、二年置き、製材してからさらに三年から数年「雨打たし」して、日陰で乾燥させる。桐は、もともと水気を吸収しにくい。じっくりと時間をかけて水を含ませ、アクを吐き出させなければいけない。
 右京区の桐材店では、雨水を「さそい水」と呼び、梅雨前に多めに製材して「雨打たし」する。十分に乾燥した桐は、木材の中でも軽く、伸縮性が少ないため、和装だんすなどによく使われる。乾燥したての桐は、表面が真っ黒で、削った時、銀色の杢(もく)目が見える。しかし、黒い筋のようなアクが残っている時もある。すべては、気候や乾燥具合による。
 時間も手間もかかるため「雨打たし」をする桐材店は徐々に減っている。さらに桐を扱う指物(さしもの)職人も少なくなってきている。
 梅雨の雨上がり、先人が編み出した自然と共に木を生かす知恵を、忘れないように、空の桐を見上げた。

【2003年6月17日掲載】