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専門家に聞く 小中一貫教育の意義と問題点

 安倍政権が進める教育政策を検証する連載「『再生』の方程式」第1部では、小中一貫教育をテーマに、京都の学校現場を通して現状や課題について考えた。中央教育審議会(中教審)は12月にも一貫教育の制度化を文部科学相に答申する見込みだ。専門家2人に一貫教育の意義や問題点を聞いた。

教員の意識変化に期待

西川信廣さん
にしかわ・のぶひろ 1954年、大阪府生まれ。大阪大人間科学研究科博士課程修了。専門は教育制度学。文科省の中教審・小中一貫教育特別部会の委員を務める。共著に「小中一貫(連携)教育の理論と方法」(ナカニシヤ出版)
 京都産業大文化学部教授 西川信廣さん(60)

 今、小中の間にあるのは「中1ギャップ」ではなく、「中1リセット」だ。小学校6年間の取り組みが全く中学校に継承されず、ゼロから鍛え直しているのが実態だ。リセットに戸惑い、中学校教育に適応できない子どもが増えている。小中の間をつなぐように学校側が変わらなければならない。

 文部科学省の調査では、一貫教育に取り組む学校の9割近くが何らかの成果を認めている。いじめ問題などが減少したり、学習意欲が向上したりしたと報告した学校は6割ある。5割超が不登校の減少に手応えを感じている。

 施設一体型は、成果が大きいとされる「4・3・2」制に区切りやすい。複数の小中からなる施設分離型は「5・4」制にして小6の中学校登校を増やせば、進学への心理的負担を減らし、学校間の連携につながる。

 ただ、学校や地域の状況は違うため区切りに正解はない。大切なのは、教員が9年間の教育課程(カリキュラム)を構造的に理解し、15歳時点の学力に責任を持つこと。制度化で最も期待するのは、教員の意識の変化だ。

 統廃合を進めるために施設一体型をつくっているという指摘は大間違いだ。できれば統廃合はしないほうがいい。しかし小規模校の人間関係の固定化は深刻な問題になっている。仮に、通学時間を20分ほど長くしてでも複数の学級にできるのであれば、統廃合もありえる。施設一体型でも異学年交流を積極的に打ち出せば、人間関係は広がる。

 小中一貫教育では、小中の教員の会議が多くなり、負担が増すということが課題になるかもしれない。でも、小中の学校事務を共同化し、教員が担う事務作業を減らすことで、教員本来の業務に専念させるなど工夫はできる。

 学校改善に積極的な地域と、従来型の地域では格差が出る可能性はある。教育委員会には制度を運用する力が求められる。先行事例を作り、どの地域でも応用できる一貫教育の情報を受発信することが教育の質を高めることにつながる。

 「課題があるからやらない」ではなく、「どうしたら克服できるか」が大切だ。地域や保護者から信頼され、支援される学校にするためには、教委は首長部局とも連携し、まちづくりの中で学校の在り方を考えなければならない。

校区広域化でしわ寄せ

室﨑生子さん
むろさき・いくこ 1943年、宇治市生まれ。奈良女子大卒。専門は地域計画、子どもの生活環境。元平安女学院大教授。共著に「あたりまえの暮らしを保障する国デンマーク DVシェルター・子育て環境」(ドメス出版)
 子どもの発達と住まい・まち研究室主宰 室﨑生子さん(71)

 小中一貫教育自体には反対しないが、一貫校の在り方に問題がある。多くの一貫校は、学校の統廃合によって大規模化し、校区が広域になっている。学校が地域になくなることは、まちづくりの観点から言えば、コミュニティーの核が消える。広がりすぎた校区は生活圏とかけ離れるため、子どもにとって良い影響は与えない。

 5小2中が統合して開校した京都市東山区の東山開睛館は都市部にもかかわらず、200人以上の児童生徒がバス通学をしている。子どもは地域の人に見守られて育つことで地域を好きになり、地域の人材になる。校区が広がると、必然的に、地域の人とのつながりは薄れてしまう。

 さらに、学校の規模が大きくなり友達が増えても、互いの自宅の場所が離れている場合には、放課後に遊ぶのは難しくなる。屋外で遊ぶことが子どもの成長にとって大切だが、登下校に時間がかかると、それが十分にできなくなる。

 大規模になっても、都市部では土地に限りがある。校舎やグラウンドが狭い敷地に詰め込まれ、それでも足りない場合は、校舎を分散させるケースが起きる。結果的に、余裕がある活動の場を確保することが難しくなったり、校舎間の移動に手間が掛かったりするなど、児童生徒や教師にしわ寄せが行く。

 一貫教育といっても「4・3・2」制や「5・4」制などさまざまな区切りが設けられ、教育内容や施設にも学校によって差が出る。まるで実験のようだ。機会均等であるべき公教育で許されることだろうか。中京区の御所南小のような、極端な人気校が出るのは、逆に言えば、公教育への不信の表れといえる。

 開校に至る手続きについて、市教育委員会は住民参加としているが、開校後に入学する乳幼児の保護者は蚊帳の外に置かれており、もっと幅広い人たちによる議論が必要だ。検討にかける時間も十分ではない。

 財務省が求める財政の効率化に従い、統廃合が進められ、そこに、一貫校が利用されているように見える。推進派は「中1ギャップ」の解消や学力向上など教育効果ばかりを強調するが、大規模統合の弊害を隠しているのではないか。経済の論理が優先されると、子どもが犠牲なりかねない。

【2014年11月29日掲載】