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(21)高齢化

 寒さが和らぎ、植物が芽吹く春。丹波地方の各地で田植えに向けた準備が進んでいる。山あいに農地が広がる京丹波町塩田谷で、谷口忍さん(80)は農業を営む。約1ヘクタールを耕し、キヌヒカリとコシヒカリを毎年、栽培する。谷口さんは「この地は粘土質の土と水がいい。だから米はうまい」と自慢する。

水田、生き方とともに次代へ

トラクターを運転する谷口さん(京丹波町塩田谷)
トラクターを運転する谷口さん(京丹波町塩田谷)

 65歳以上が6割超

 新幹線の車掌を務めたJR東海を定年退職した後、農業に本格的に取り組み始めた。米を減農薬で育て、主に宇治市内のレストランに出荷している。

 うまい米作りを目指し、田に油かすをまく栽培法を続ける。「タンクを背負って、まく作業は年がいって、しんどくなってきた。いつまでやれるか分からないけど、農地を守っていかな」

 水田の多くは高齢者が支えている。2015年の農林業センサスによると、全国の農業就業人口の平均年齢は66・4歳で10年前と比べて3歳上がった。65歳以上が占める割合は6割以上だ。

 谷口さんは「都会のマンション暮らしの元同僚から『することがあってええなあ』とうらやましがられる。自給自足の幸せな暮らし。いずれは息子が継いでくれるでしょう」と語る。

無農薬の米づくりについて自身の水田で語る高屋さん(南丹市八木町西田)
無農薬の米づくりについて自身の水田で語る高屋さん(南丹市八木町西田)

 「限界集落」が点在

 後継者がなく、耕作放棄が進む現状がある。同センサス(15年)の府内の耕作放棄地面積は10年前と比べて400ヘクタール増の3098ヘクタール。丹波2市1町では1・6倍の375ヘクタールとなっている。

 京丹波町鎌谷奥の山あいにはカヤやススキが生えた水田跡が広がっていた。近くで米や小豆を栽培する男性(73)は「所有者が町外に出て行ったり、後継者がいなかったりして耕作放棄地が増えている。少しでも無くそうと、農業をできる限り頑張っているが、高齢化によって集落で作業ができる人が少なくなってきた」と嘆く。京都の丹波地域では、集落の半数が65歳以上の「限界集落」が点在し、過疎高齢化と相まって耕作放棄が進む。

 一方で「時間がある高齢者だからこそできる“小さな農業”があってもよいのでは」と、南丹市八木町西田の高屋晧さん(75)は語る。教員を退職した後、無農薬の米作りを手がける。アイガモを水田に放って雑草を生やさないようにする農法を実践。除草機で丁寧に草を取り除く。ほかの田んぼには養分になるレンゲをまく。

山あいに広がる耕作放棄された水田(京丹波町鎌谷奥)
山あいに広がる耕作放棄された水田(京丹波町鎌谷奥)

 退職後に向き合う

 高屋さんは「カモが大きくなった雑草をよけてしまう。自然はそう簡単にはいかない。退職後にじっくりと土と向き合うようになった。安全安心に食べられるものを赤字が出ない、高すぎない値段で提供したい」と言う。

 耕作放棄地が増える現状に危機感を募らせる。「食料自給率が低く、食の安全保障さえできていない。農業は公益性の高い仕事。公務員のような立場でなければ、継続は難しい」と実感する。

 今年は無農薬の水田に興味を持つ、30~40代の若者と一緒に米を栽培する予定だ。「米作りは誰から指示されるわけでない。田んぼにいると居心地がよくてほっとする。仕事をしながら農業をする半農半Xという生き方もある。若い人たちに経験を伝え、次の世代にバトンタッチしていければ」

 水田には食や土地を守る、そんな人生の先輩たちの思いがつまる。生き方とともに引き継がれようとしている。

【2019年03月17日掲載】