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苅谷勇雅氏 改正文化財保護法に危うさ

苅谷勇雅氏 かりや・ゆうが 1948年生まれ。京都市都市景観課係長、文化庁建造物課長、小山工業高等専門学校校長などを歴任し、現在は国際記念物遺跡会議(ICOMOS)国内委員会副委員長。


 昨年改正された文化財保護法は本年4月から施行され、新しい文化財保護行政がスタートする。昨年10月には文化庁の機構が「機能重視」の組織へと大改造され、文化財部門等の京都移転も間近である。

 今回の法改正は、文化財の保護をより幅広く、柔軟に、また積極的な活用をも実現するために「計画」策定を法的に位置づけたことに特色がある。都道府県が策定する「大綱」を踏まえて市町村が「文化財保存活用地域計画」を策定し、個別の文化財については所有者等が「保存活用計画」を策定する。

 「地域計画」は市町村の文化財保護行政のマスタープランであり、従前とは格段に熟度の高い計画的な事業展開が期待される。都市計画マスタープランや法律に基づく「歴史的風致維持向上計画」と連動して、文化財保護施策が総合的なまちづくりの重要部分を担うこととなる。

 「地域計画」等に記載の事項については、文化庁長官等の「現状変更許可」の権限が一定の範囲で市町村に委譲されるという。現在、文化庁はこれらの計画策定指針の作成を急いでいる。

 ところで、今回の法改正による新しい文化財行政の展開について、私には危惧を感じていることがある。第一は、「保存」と「活用」の両立を図るといいつつ、地域振興、観光開発のために文化財を活用するという、「活用」への前のめりの姿勢が一部で見られることだ。文化財は保存が第一であり、それが全うされることによって地域社会の将来に向けての持続的な活用を可能とする。文化財の性急な活用は経済的な「利用」であり、その文化的価値を現時点で「消費」してしまいかねないとの懸念である。

 第二は、新施策を担う人材と予算の恒常的な不足である。従来、文化財保護担当の人材、特に文化財建造物に携わる専門職員は、都道府県、市町村とも極めて少ない。また、文化財の活用についての確かな知識や経験を持つ専門家は、地方自治体職員だけでなく、民間においても非常に少ない。

 このため、自治体や所有者等が自前で実情に即した精緻な「地域計画」、「保存活用計画」をつくることは容易ではない。文化財の適切な保存と公開・活用を見識と技術をもって確実に担えるコアとなる専門人材の確保と養成がまず必要ではないか。

 文化財の修理や災害復旧等は別として、性急な計画づくりや事業展開はすべきではない。また、予算が少ないからと保存より「活用」に頼ることは、本末転倒というべきであろう。

(元文化庁文化財鑑査官)

[京都新聞 2019年03月22日掲載]