ソフィア 京都新聞文化会議 京都新聞電子版へ

山本茜氏 截金ガラスで綴る源氏物語

山本茜氏 やまもと・あかね 1977年生まれ。独学で截金を始め、重要無形文化財「截金」保持者・江里佐代子氏から伝統的截金技法を学ぶ。京都市立芸術大日本画専攻卒。京都市内に工房を構える。


 世界で唯一の截金(きりかね)ガラス作家として活動している。工程を簡単に説明すると、文字通りガラスの塊の中に截金を立体的に封入する手法で、ガラスの反射・屈折という光学的効果によって截金が万華鏡のようにさまざまな表情を見せる。
 ところで截金とは、細く切った金箔(きんぱく)を貼ることで精緻な文様を表現する技法で、主に仏像・仏画の装飾に用いられている。6世紀に仏教伝来とともに日本に伝わり、平安時代に都の貴族の美意識にかない隆盛を極め、現代まで京都を中心に伝承されてきた。平安時代の優れた仏像・仏画には截金が施されていることが多いので、寺院や美術館で目にした方もおられるだろう。
 私はこの截金を装飾ではなくそれ自体を独立した芸術表現にできないかと希求の末、透明なガラスの中で三次元に浮かせて見せることに思い至り、截金ガラスを創出した。それ以降というもの截金とガラス、両方と格闘する日々を送っている。
 作品の題材は四季折々の自然や文学などから得ているが、特に『源氏物語』五十四帖(じょう)の制作をライフワークにしている。各帖の最も心に残った場面を抽象的な立体作品にしているのだが、全帖を完成させた暁には美術館で展覧会を開くのが夢である。今までに20作品を作り、残りは34作品。長い道のりだ。
 『源氏物語』は中学生の時からの愛読書で、京都市立芸術大に入学したのも「源氏物語を憧れの上村松園画伯のような美しい絵で絵巻に綴(つづ)りたい」との願いからであった。
 在学中に截金の魅力に触れ、進路を変更したが、表現したいものに変わりはない。また、截金は『源氏物語』が紡がれた平安時代に流行した美術であるから、まさにその時代の雅な風情を持っていて、截金ガラスはうってつけの技法なのだ。
 制作にあたり、物語に出てくる場所を実際にたどってイメージを膨らませるのだが、京都市内を散策すると「夕顔町」という地名などもあり、源氏物語がフィクションではなく史実ではないかと錯覚してしまうほど、現在でも京都には源氏物語の世界が息づいている。
 私は山間部に住んでいるので山霞(かすみ)や飛び交う蛍、鹿の鳴き声など物語に出てくる自然描写がそっくりそのまま味わえるのもイメージの源泉となっている。
 工房で截金をしていると、金線の先が平安時代とつながっているかのような不思議な感覚に陥ることがある。あの時代から変わらぬ技術と精神を受け継ぎつつ、ガラスの中で新たに三次元となった截金表現で世界最古の長編小説『源氏物語』に挑む。

(截金ガラス作家)

[京都新聞 2018年06月29日掲載]