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土佐尚子氏 芸術・学問融合で新たな世界

土佐尚子氏 とさ・なおこ 1961年生まれ。専門はアートとテクノロジー研究。MIT高等視覚研究所などを経て現職。2016年度文化庁文化交流使。作品はニューヨーク近代美術館がコレクション。


 芸術は現代社会の行き詰まりを打破し、新しい次の舞台をつくりだせるだろう。芸術と法学、芸術と経済学、芸術と科学といった従来にはなかった組み合わせは、幅広く柔軟な学問の土壌を供えた京都大ならではの可能性だと考えている。
 絵筆を握り、写真、映像なども経た現在、私はテクノロジーを用いた芸術作品の制作を進めている。人生では禅の教えに強く引かれた。2015年の琳派400年では「風神雷神」にちなむ映像を高速度カメラで制作し、京都国立博物館の外壁に投影させた。動く風神、雷神と狂言、いけばなを交えた映像は、21世紀の琳派を表現したいと思った。
 この取り組みに対し、芸術関係者からはさまざまな感想があったと聞く。過去を振り返れば、歴史に残る建物や芸術の制作過程には、その時々の最先端技術が関わっていることが多い。批判を恐れずに、芸術を歴史の延長線上で捉えることはより重要ではないか。
 実際、京都の伝統的な世界には京博で展開したような「テクノロジーと芸術の出会い」に対する柔軟な理解を感じる。2016年、臨済宗建仁寺派大本山・建仁寺に掛け軸作品「雲の上の山水」と寺に200年生きた黐の木の写真をデジタル加工した「静寂」を奉納した。「雲の上の山水」は、約千枚の飛行機の上から撮影した雲の写真から作ったデジタルアートの山水で、和紙にプリントアウトした十二幅の掛け軸だ。現在は、本堂の「風神雷神図」(複製)の左手に展示されている。京都五山のひとつが、このような作品を受け入れてくださるのはたいへん光栄で、小堀泰巌・建仁寺派管長から「禅的な作品だ」と批評された。
 これらは、芸術を美術館やギャラリーといった非日常空間から日常に移す試みでもある。ミュージアムで難しい顔で鑑賞するだけでなく、肩の力を抜いてアートに接すること、例えば勤務先のビルのロビーなどに芸術作品が並べば、企業でも新たな価値創造に結びつくかもしれない。
 京大でもこれまでデザインの力が注目されてきた。論理だけでなく、柔らかい思考で現状を改良・改善できるだろう、と。しかし、改善は、まったく新しい価値創造ではない。芸術こそが新しい価値を発見し、新しい創造に結びつけられるのだ。
 あす22日午後1時から京都府立京都学・歴彩館で「伝統文化と科学・芸術の新たな出会い」をテーマにした日本学術会議のシンポジウムがあり、「伝統芸術と科学」と題して京大の山極寿一総長と私が対談する。一般の方の聴講も歓迎だ。ぜひ一緒に考えてほしい。

(京都大学大学院総合生存学館特定教授)

[京都新聞 2018年12月21日掲載]