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街中に残る京町家(京都市下京区)

生活伝える蔵、倒壊危機

 杉本家住宅は四条烏丸の南西、綾小路通に面して、間口約30メートル、奥行き約60メートルの敷地を占める京都を代表する町家です。杉本家は、初代新右衛門が、1743(寛保3)年に四条烏丸で、「奈良屋」と号した呉服店を構えたのが始まりで、1767(明和4)年に現在の地に移りました。明和4年の移転当初は3間の間口であったと伝えられていますが、その後徐々に敷地が拡張され、明治中期ごろに現在の規模になったと考えられています。また、祇園祭の伯牙山の会所となっていることも知られています。

修理前の杉本家住宅旧米蔵(2015年8月撮影)
修理前の杉本家住宅旧米蔵(2015年8月撮影)

 現在の主屋は1864(元治元)年の大火災後に再建され、主屋の西端から矩折(かねお)れに伸びる高塀の北に、被災を免れた、大蔵、隅蔵、中蔵がL字に並んでいます。また、敷地東側には旧米蔵と旧漬物小屋が建っており、伝統的な京都の町屋形式がよく保存されていることから、2010年6月に主屋ほか3棟が重要文化財に指定されました。

 主屋は、綾小路通りに面する店舗部と裏手の居室部を玄関で結ぶ、いわゆる表屋造りになっています。

 店舗部は2階建てになっており、中央東寄りの出入り口を土間の通路としています。居室部は玄関の上部を吹き抜けにしており、梁(はり)上に束と貫を組んだ力強い小屋組みが見られます。

想像以上に傷んでいた柱の足元(2017年2月撮影)
想像以上に傷んでいた柱の足元(2017年2月撮影)

 今回京都府教育委員会が受託して修理事業を行っているのは、主屋とともに、昔の京町家での暮らしを伝える旧米蔵です。旧米蔵は土蔵造りの建物で、基礎となる石の上に柱を立て、柱間に貫(ぬき)を通し、柱上は桁を置き、壁・屋根を土で覆って、漆喰(しっくい)で塗り固めたものです。土で建物を覆っているため、一般的な木造建築物よりも、防火性能に優れているのが特徴です。また、土壁により室内の湿度が一定に保たれるため、倉庫として利用するのに適した建物です。当初の修理計画は、建物の老朽化と台風による被害で剝離した漆喰壁の補修と屋根瓦の葺(ふ)き替え及び木部の部分的な補修でした。しかし、実際に屋根瓦を降ろし、一部土壁を解体してみると、想定以上に建物が傷んでいることがわかりました。柱の足元3分の1ほどがシロアリの被害に遭い、屋根の下地となっている野地板(のじいた)からもシロアリが発見されました。修理を行うタイミングがあと少し遅ければ、蔵自体が倒壊していたかもしれません。

 そこで、修理計画を大幅に見直し、建物の解体修理を行うことになりました。

竹小舞に荒壁土を付ける作業(2017年8月撮影)
竹小舞に荒壁土を付ける作業(2017年8月撮影)

 あまりに傷みの激しい柱は交換し、まだ使えそうな柱は再利用します。柱間を固定する貫も、シロアリの被害により役目を果たしていなかったため新しいものに交換しました。新たに、土壁の下地となる竹小舞(たけこまい)を組み直し、まず、乾きやすい外部の荒壁土を付けていきます。その後、内部の荒壁土を付けていくのですが、これを「裏返し」といいます。土蔵造りの建物は、住宅の土壁と比べるととても厚みがあります。荒壁土の後は、ムラ直しなどを行い、中塗土を付けていくのですが、それまでに、十分に乾燥させる必要があります。ここで十分に乾燥させないと、完成後の建物の品質に大きく影響を与えます。中塗土を付けたあとは、漆喰塗で仕上げていきますが、現在はまだ工事中です。

文化財保存杉本家住宅
文化財保存杉本家住宅

 杉本家住宅の主屋は一般公開・特別公開を行っており、昔ながらの京町家をゆっくり御覧いただけるようになっています。また、主屋に囲まれた小さな空間に工夫を凝らし、芸術性に富んだ見事な庭園(国指定名勝)も鑑賞できます。近代的な建物が立ち並ぶ京都の中心部に、伝統的な建物と庭園が残されており、とても貴重な空間です。公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会のホームページに一般公開・特別公開の日程が掲載されておりますので、ご興味のある方は是非訪れてみてください。
(京都府教育委員会文化財保護課建造物担当 椎橋勇太)

【2018年1月17日付京都新聞夕刊掲載】