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平等院の極楽浄土(宇治市)

千年前の彩色、膠で守る

 十円硬貨に描かれている平等院鳳凰堂。円形の薄い銅板に、建物の立面図を精巧に描写し、かつ大量生産が行える現代の技術には感嘆しますが、昔からある技術も大変素晴らしいものがあります。

平等院鳳凰堂の堂内(2014年3月撮影)=平等院提供
平等院鳳凰堂の堂内(2014年3月撮影)=平等院提供

 国宝平等院鳳凰堂は、1053(天喜元)年に阿弥陀堂として建立されました。現在も阿弥陀如来をおまつりしているのですが、屋根の上に鳳凰が載っていることや、建物の形が羽を広げた鳳凰(ほうおう)の姿に似ていることから、後に鳳凰堂と呼ばれるようになりました。

 内部は、中央に国宝阿弥陀如来坐像が安置され、周囲の壁面には雲の上で楽器を演奏したり踊ったりしている国宝雲中供養菩薩(ぼさつ)がまつられています。さらに扉や壁面には九品来迎図(くほんらいごうず)という阿弥陀さまご一行が、亡くなられた方を迎えにこられる様子が描かれており、柱等の木部には繧繝彩色(うんげんさいしき)が施されています。他にも鏡や螺鈿(らでん)が施され、平安時代の最高の技術をもって極楽浄土が表現されています(国宝鳳凰堂壁扉画)。

平等院鳳凰堂で行われている剥落止め作業(8月撮影)
平等院鳳凰堂で行われている剥落止め作業(8月撮影)

 鳳凰堂に残っている彩色は、ほとんどが建立当時のもので、約千年前に施された技術が現在も機能しているという素晴らしい事例ですが、長い年月の中で、絵画面の剝落(はくらく)が進み木部があらわになっている箇所も見受けられます。そこで、これ以上の剝落が進まないように、2015年度から剝落止め工事を実施しています。

 剝落止めとは、現在残っている絵画面に膠(にかわ)やふのり、また必要に応じて合成樹脂を使用して、剝離している木地と絵の具層を接着させ、絵の具が落ちないようにする処置のことをいいます。今回の建造物修理では、膠を用いて剝落止めを行っています。

文化財修理に使われる伝統的製法の膠
文化財修理に使われる伝統的製法の膠

 膠とは、古来接着剤として使われている材料で中国では紀元前4千年ごろ、エジプトでは紀元前3千年ごろから使われていますが、日本では使われるのが比較的遅く、7世紀以降のようです。

 主成分はゼラチンで、原材料や作り方は各時代によりさまざまです。現在のものは一般的に動物の皮や骨が使われ、牛やウサギ、羊、魚といったようにさまざまな動物から作られています。作り方は、大ざっぱに説明しますと、原料となる素材を下処理して、じっくりコトコト煮込んでからろ過し、その後、冷やして乾燥した物が膠となります。

 使い方は、お湯に溶かして、ゲル状になったものを接着面に塗布していきます。

 膠は、西洋ではバイオリンの製作に用いられており、非常に強力な接着力でありながら、加熱することにより柔らかくなるので、剝がすことも可能です。建築彩色では、湯煎した膠水に顔料を混ぜて、絵の具として用います。

 このように膠は、古来よりある非常に優秀な接着剤で、文化財の修理にも欠かせないものとなっています。

 現在も膠は製造されておりますが、ほとんどは化学的に製造されるもので、伝統的製法のものは需要が減って、生産終了となる商品もあり、将来の入手が危ぶまれています。文化財を永く保存していくためには、使われる材料や道具も保存していかなくてはならないと考えさせられる一例です。

 今回の剝落止めの作業では、2~4%程度に薄めた膠水溶液を彩色面に含浸させていきます。彩色面の劣化状況は部位によりさまざまで、絵の具層が浮いているところもあれば、顔料が粉のように浮き上がっている箇所もあります。したがって、部位により膠の塗布方法を変更するなど、それぞれの箇所に応じた細かい作業と経験による的確な処置の判断が求められます。

平等院境内図
平等院境内図

 鳳凰堂の中では、剝落止め工事を実施しておりますが、現在も内部拝観はできます。また、残っている彩色は、少し遠いところからでも、確認することもできます。千年前に関白・藤原頼通卿がこの世に現された極楽浄土の世界を、将来に大切に伝えていけるよう地道な修理の作業はあとしばらく続きます。
(京都府教育委員会文化財保護課建造物担当 椎橋勇太)

【2017年9月20日付京都新聞夕刊掲載】