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渡れぬ横断歩道  歩行者優先で安心の街に

 なかなか車が止まってくれない。横断歩道だけど信号機はない。やっと車の流れが途絶えたので、足早に道路を渡り、やれやれとなる。
 そんな経験、みなさんにもあるのでは。でも、よく考えてみれば、何やらおかしい。
 道交法38条では、横断歩道は歩行者優先となっている。車は横断歩道に近づいたら、直前で止まれるような速度でないといけない。歩行者がいれば一時停止し、通行を妨害してはならない―とある。
 日本自動車連盟(JAF)が今年実施した全国調査によれば、信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとする状況で、一時停止した車は、わずか8・6%。10台に1台もない。
 京都は3・8%と下から10番目で、滋賀は8・3%。各都道府県で2カ所ずつ選んで調査しており、地域や場所によって実情は変わるだろうが、市街地を歩いていての経験とは重なるところがある。
 どうして一時停止しないのか。理由を聞いたJAFの昨年調査がある。複数回答で多いのは、「停止しても対向車が停止せず危ないから」「後続車がなく、通り過ぎれば歩行者は渡れる」「歩行者が渡るかどうか分からない」「停止した際に後続車から追突されそうになる」で、それぞれ3~4割ある。
 うなずくドライバーも少なくないだろうが、忘れてはいけない。歩行者優先は配慮を示すマナーではなく、道交法で定めたルールであること。違反したら、普通車では違反点数が2点、反則金9千円だ。
 警察庁が昨年までの5年間に全国で発生した車対歩行者の死亡事故を分析したところ、歩行者の道路横断中が4811件と7割超を占めた。このうち信号機のない横断歩道では472件起きている。横断歩道を時速31~60キロ超で走っていたのが374件もあり、減速義務を守らなかったことが、死亡事故につながったといえる。
 京都府警に同じ項目を聞くと、道路横断中の死亡事故は82件でやはり7割超、横断歩道では19件、うち信号機がないところでは3件あった。
 死亡事故の件数は比較的少なくても、数字に表れないヒヤリ・ハットが横断歩道で頻発しているのではないか。
 長く日本に暮らす英国出身の男性が、母国では横断歩道で車は必ず止まる、と新聞に投稿して反響を呼んだ。ネット上で、豪州やドイツ、米国でも「歩行者優先は当たり前」といった声が相次いだ。
 東京五輪・パラリンピックを控え、歩行者優先が定着する国の旅行者も増えるだろう。京都では外国人観光客が歩道からあふれんばかりになる。事故が心配だ。
 警察庁は、横断歩道での歩行者優先を徹底するよう、全国の警察に指導、啓発の強化を指示した。
 外国人のためだけでなく、歩行者優先の理念をもう一度広める必要がある。ルールを土台に車と人がうまく折り合うには、どうすればいいのだろうか。知恵を出して、安心して歩ける街にしたいものだ。

[京都新聞 2018年11月18日掲載]

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