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「人質司法」  実態に目向け市民議論を

 まるで人質のように身柄を取られ、自白調書に署名しない限り解放されない-「人質司法」と批判される長期勾留である。
 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告の勾留が長期に及び、欧米メディアから「人質司法」と厳しく指摘されたことで、目が向けられている。
 これに対し、国によって司法制度は異なる、外国から言われて問題にするのはおかしい、といった声を聞く。
 だが、海外から指摘されるまでもなく、国内でも「人質司法」に対する批判は繰り返されてきた。
 元衆議院議員の鈴木宗男氏は437日間、元厚生労働事務次官の村木厚子さんは164日間も勾留された。2人とも否認を貫いたことが長期勾留の要因と言われている。
 大阪地検特捜部による証拠改ざんが発覚し、村木さんの無実が明らかになる。同時に、検察に都合の良い供述や自白に誘導する、密室での取り調べの実態が浮かび上がった。
 この事件を機に、「新時代の刑事司法制度」について法制審議会の特別部会で議論が繰り広げられた。実は、長期勾留の問題も重要なテーマであった。
 議論は2011年から3年間、30回に及び、法曹三者(裁判官・検事・弁護士)、刑法学者、えん罪を描いた映画「それでもボクはやってない」の監督の周防正行氏、そして村木さんが委員として参加していた。
 長期勾留の弊害が指摘される中で、在宅と勾留の中間的な処分を新設するという提案がされたことに注目したい。住居の制限や親族らとの接見禁止、特定場所の立ち入り禁止という条件付きで、裁判所が在宅を認めるというものだ。
 しかし、最終の取りまとめでは、取り調べの録音・録画導入などが明記され、中間処分の提案は認められなかった。現行の刑事訴訟法が定める勾留、保釈の要件に問題はなく、適切に運用されているという理由だ。
 刑訴法などで、身柄の拘束は逮捕から最大23日間、起訴後は原則2カ月で延長も可能だ。いずれも逃走、証拠隠滅の恐れの有無で裁判所が判断する。
 しかし、法定と実態が大きく懸け離れていないか。裁判所の責任は重い。最近、勾留請求却下率や保釈率は上がっているというが、もっと裁判所に目を向ける必要がある。
 特別部会で、村木さんは「制度の趣旨にのっとり適切に運用されているとの発言を聞くたびに、不安になる。自分の経験で、そうではないと知っているから」と述べ、現実を直視するよう訴えている。
 「身柄拘束は本人にとって刑と同じ。精神面でダメージになり、虚偽の自白の要因になりやすい」とも述べている。村木さんの過酷な体験を、検察や裁判所はどう受け止め、長期勾留の改善に向き合ってきたのか。
 周防氏は「専門家が当たり前と思っていても、市民にとっては当たり前ではない」と部会の最後に述べている。
 「人質司法」の見直しへ、市民感覚をもっと取り入れて、あらためて議論すべきだ。

[京都新聞 2019年01月20日掲載]

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