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格差社会  人口減時代の再分配とは

 <経済力にせよ軍事力にせよ、日本は一位とか二位とかを争う野暮な国じゃなくていい。『別品(べっぴん)』の国でありたい>
 コラムニストの天野祐吉さんが、昨年の没後に出版された「成長から成熟へ―さよなら経済大国」に書いている。
 著しい少子化と高齢化で、日本はどの国も体験したことのない継続的な人口急減社会に入った。戦後70年。「成長」を至上の旗印に、走ってきた国のあり方が根本から問われている。世界の新しいモデルとなるような「別品」の国とは何か。
 戦後、自民党は成長策を掲げる首相と、再分配策を軸にする首相が社会の変化に応じて入れ替わり登場し、長期政治の命脈を保った。前者の象徴が所得倍増論の池田勇人首相であり、後者の代表格が公共事業を分配して「国土の均衡」を目指した田中角栄首相であろう。
 近年では小泉政権が規制緩和や医療費削減など「構造改革」で成長を目指したのに対し、民主党が子ども手当などの再分配を訴えて政権を奪った。だが、その運営のつたなさが批判を浴び、自民党が復活を果たした。
 安倍晋三首相はアベノミクスで「成長」に最大価値を置く。円安と株高を誘導して大企業や資産家に恩恵を与える一方、公共事業を増発する。政府と日銀でカネをまき、無理やり「成長」を水増しするかのようだ。実質賃金や実需は増えておらず、「経済の好循環」には遠い。所得、地域、世代、性別…。格差は多面的に広がる一方である。
 ただ、それを修正する政策理念が野党にもない。先の衆院選で自民党が大勝したのは「ほかに選びようがない」という消極的信任だったろう。
 格差問題への関心の高まりは日本に限らない。野放しの資本主義が富と貧困を世襲させ、社会の溝を広げると実証した「21世紀の資本」(トマ・ピケティ)が各国でベストセラーになっている。「所得格差こそが経済成長を押し下げている」とOECD(経済協力開発機構)も最近の報告書で指摘した。
 オバマ大統領は先の一般教書演説で、富裕層の負担増を強調せざるを得なかった。「景気回復で潤っているのは金持ちだけ」との批判が強いからだ。
 まして人口減で国内市場が縮小する日本である。期待や欲望をあおって経済規模を引き延ばす成長戦略より、必要なのは量から質へと豊かさの価値観を転換する「成熟社会」への戦略だろう。あえて成長という言葉を使うのなら、縦でなく「横の成長」を目指してはどうか。
 野党でも、自民党の中からでもいい。高度成長期のような公共事業のばらまきではない、人口減時代における再分配の理念と手法について、骨太の議論を起こしてほしい。個人や企業の応能負担を徹底するため、課税の抜け穴を防いで対象を広げたり、霞が関で差配する税財源を地方に移譲したり、痛んだ雇用や公教育の再建など論点は幾らもある。
 成長が横に広がり、人がつながって社会の亀裂をふさぎ、足腰の強い地域社会が立ち上がってこそ、グローバル経済に翻弄(ほんろう)されない「別品の国」が見えてくるのではないだろうか。

[京都新聞 2015年01月25日掲載]

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