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かかりつけ  人材育成と情報発信を

 丹後半島の東端、京都府伊根町で診療所長を務める石野秀岳さんが、本紙の丹後中丹・丹波版のコラムにこんな体験を書いている。
 具合が悪いはずなのに、お年寄りに「調子はどうですか」と尋ねると「ええです」と答える人が少なくない。ある時「あんびゃあ(塩梅)はどうなん?」と地元の言葉で聞き直したところ、一転して「先生、あんびゃあは悪い」と膝や腰の痛みを打ち明けてくれるようになったという。
 以来、なるべく方言で話しかけているそうだ。ささいなようだが、患者と医師の信頼関係とは、そんなことから始まるのだろう。
 病気やけがの際に医療機関に支払う診療報酬について、2年に1度の改定内容が中央社会保険医療協議会で決まった。4月からは診療所の紹介状なしで大病院に行くと、初診時5千円以上、再診時2500円以上の追加負担がかかるようになる。
 まずは身近なかかりつけ医に診てもらい、必要な時だけ大病院へ。これを習慣づけてもらおうというのが改定の狙いだ。
 高齢化に伴って増え続ける医療ニーズに対応するには、限られた人員や設備を有効に使う工夫が要る。医療の仕組み全体を効率化していくことは避けられない。患者や家族の理解が得られるよう、医療機関は丁寧な対応を心がけてもらいたい。
 今回の改定では、医師だけでなく薬剤師の「かかりつけ」も普及させることを目指す。複数の病院に通う患者の場合、それぞれから処方される薬が重複することがある。かかりつけ薬局を決めれば一カ所で薬を管理でき、重複をなくして薬代のムダを省いたり、悪い飲み合わせを避けたりすることができる。
 そこで、こうした薬剤師の服薬指導に対する報酬を新設する。大病院の前にある大手チェーンなどの「門前薬局」のサービス向上も促し、立地の良さに依存しない経営へ転換させる。
 かかりつけ医の機能も強化する。訪問診療に特化した診療所の開設を解禁するほか、複数の病気をもつ認知症患者を継続的に診たり、末期がん患者の緩和ケアに取り組んだりする医師を報酬面で優遇する。
 ただ、これらの施策が狙いどおりの効果を生むとは限らない。患者が大病院に頼りがちなのは、近くで自分に合った医師や薬剤師を選ぶための情報が不足しているからだ。そもそも診療所のない地域もある。専門外の疾患に対応できる総合診療医の育成も、喫緊の課題だ。
 報酬を増やしても医療の質と量が伴わなければ、患者は負担に見合ったサービスを受けることができない。信頼される医師、薬剤師を増やすとともに、住民に向けた情報発信が不可欠だ。国や自治体、大学、医師会、薬剤師会などが連携し、知恵を絞ってほしい。
 伊根診療所の石野さんによれば、患者と気軽に会話し、コミュニケーションがとれれば、それだけで病気を診断できることもあるという。何でも話せる医師や薬剤師が身近にいるという安心感を、どの地域にも広げたい。

[京都新聞 2016年02月28日掲載]

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