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成年後見促進法  自己決定権の尊重こそ

 認知症や知的・精神障害などで判断能力が十分でない人の権利をどう擁護するか。あらためて成年後見制度の課題を洗い出し、改善する必要がある。
 2000年に導入された成年後見制度は、親族や弁護士が「後見人」(家庭裁判所で選任)となり、認知症高齢者らの財産管理や介護サービスの契約などを代行する仕組みだ。だが、制度の利用者は14年末時点で約18万人にとどまり、400万を超す認知症の人にはほとんど浸透していない。
 悪徳商法の被害に遭うのを防いだり、必要な医療介護を受けたりするために後見人の役割は大きい。それでも制度が低調なのは、一人暮らしの増加や代理行為に伴う負担・制約の多さから、後見人のなり手が少ないためとされる。
 先週、国会で成立した議員立法「成年後見制度利用促進法」は、首相をトップに関係閣僚が参加する利用促進会議を内閣府に設置し、3年以内に必要な法整備をすると定めた。後見人の権限拡大や、親族以外の市民も担い手になれる仕組みづくりを目指す。
 だが現行制度には他にも、後見人による財産横領の多発や、判断能力の個人差を考慮しない一律的な権利制限などの問題が指摘されている。会議はまずこうした課題を解決しなければならない。
 当事者団体には、特に医療面で後見人の権限が拡大されることへの懸念が強い。手術や輸血などの同意権が後見人に認められれば「障害者や高齢者の自己決定権が侵害されかねない」との反発がある。終末期の延命措置の中断を同意権の範囲に含めるのかといった点も含め、慎重な議論が必要だ。
 一方で急務なのは、不正の防止策だ。昨年、財産横領などの不正行為は521件(被害総額約29億7千万円)あり、うち弁護士や司法書士ら専門職によるものは過去最多の37件(約1億1千万円)に上った。今回の新法では、家裁をはじめ関係団体の監督体制の強化を図るが、人員確保や予算措置を含めた実効ある対策が欠かせない。
 被後見人の職業を制限する「欠格条項」の見直しも急ぎたい。現状では後見制度を利用すると、公務員などとして働いている障害者らは失職することになる。こうした資格制限は200以上あり、社会参加を阻む要因になっている。
 当事者自身が望む生活の実現こそ、成年後見の最大の目的だ。一人一人の判断能力や意思表示をサポートし、自己決定権を尊重する制度への見直しが要る。

[京都新聞 2016年04月15日掲載]

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