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パリ協定の行方  米に責任ある態度を促せ

 日本で8年ぶりに開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が閉幕し、オバマ米大統領の広島訪問が注目を集めるなか、米国から気になるニュースが飛び 込んできた。次期米大統領の共和党候補に決まったドナルド・トランプ氏が地球温暖化防止を目指して昨年合意された「パリ協定」から脱退する意向を表明した という。あまりの不見識に驚きを禁じ得ない。
 トランプ氏は「米国が第一」を旗印にエネルギー確保を優先し、オバマ政権による二酸化炭素 (CO2)排出規制に真っ向から反対している。カナダから米南部に至る長大な石油パイプライン計画も推進する方針だ。世界のCO2排出量の16%を占める 米国でトランプ政権が誕生すれば、世界的な温暖化防止の努力が水泡に帰する恐れがある。
 歴史を振り返れば、温暖化をめぐる議論は米国の意向に大きく左右されてきた。温暖化が政治の場に初めて登場したのは30年ほど前。米議会で科学者が、折からの猛暑・暖冬と人間が排出するCO2の関連を警告して関心が高まった。
 この機運を受け、地球サミットがあった1992年に気候変動枠組み条約が採択され、さらに5年後、先進国に排出削減義務を課した歴史的な京都議定書が採択された。当時のクリントン政権で環境政策を担ったゴア副大統領が京都に乗り込み、国際交渉を成功に導いた。
 ところが、保守的なブッシュ政権に変わると米国の態度は一変する。「世界のCO2排出量の3割を占める中国が加わっていないのは不公平」と、京都議定書から一方的に離脱し、実効性は薄れてしまった。
  京都議定書の後継となるパリ協定は、今度こそ米国内の同意を得るため、中国やインドも削減に取り組む約束を取り付け、長い交渉の末に合意にこぎ着けた苦心 の作である。その枠組みから米国がまたもや離脱するなら、協定の実効性を損ねるだけでなく、国際的な信義を裏切る振る舞いで、許されない。
 伊勢志摩サミットの参加国も早速手を打った。パリ協定を当初見込みより2年も早い今年中に発効させる目標を掲げ、再生可能エネルギーや省エネ技術への投資拡大を図ることで合意した。任期を終えるオバマ大統領が議論を主導したという。
 もしトランプ氏が大統領になっても、容易に脱退を許さず、対策を後退させない-という強い意思の表れといえよう。全体に実りの乏しかったサミットで注目すべき成果といえる。
  5月なのに30度前後の暑い日が続いている。インドや中東地域が記録破りの熱波に襲われ、中国内陸部の新疆ウイグル地区や米国東部は季節外れの大雪に見舞 われた。こうしたニュースに驚きを感じないほど異常気象が世界各地で頻発している。地球規模の気候変動はいよいよ差し迫った危機になりつつある。
 中国や新興国の台頭もあって米国は「内向き」を強めているが、なお世界一の経済力と軍事力を有する超大国だ。日本などサミット参加国が結束し、環境面でも自覚と責任ある行動を米国に促さねばならない。

[京都新聞 2016年05月29日掲載]

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