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ゲンゴロウ絶滅  生き物とどう共存する

 ゲンゴロウが湖国から消えた。滋賀県が5年ぶりに改訂した「レッドデータブック」で絶滅種とされた。
 かつてどこの田やため池でも見られた水生昆虫だ。しかも、豊かで多様な自然を誇り、環境を大切にしてきたはずの滋賀でのことで、衝撃は大きい。
 生物多様性の喪失に対するゲンゴロウからの警鐘と受け止め、人間社会のありようを謙虚に見つめ直したい。
 今回のレッドデータブックでは絶滅種の昆虫がベッコウトンボなど7種も増えた。絶滅危惧種も8種増え、176種に上っている。中にはタガメなど近年、目撃例がない種もあり、「生態系の基盤である植物と、それに依存する昆虫類に危機的な変化が生じ始めた」と指摘する。
 京都府も決して他人事ではない。ベッコウトンボは滋賀に先立って絶滅種となり、ゲンゴロウも絶滅寸前種とされている。
 確かに自然は目に見えて変わっている。山に入れば、増え過ぎたシカが下草が食べ尽くし、毒草だけが目立つ。琵琶湖では外来種の水草が猛烈な勢いで広がる。
 人の手が加わった「二次的自然」の変貌も大きい。かつては全国各地にいたドジョウ科の魚アユモドキの危機もそのせいだ。
 河川やほ場の整備で生息域のつながりが分断される。過疎化、高齢化で、田やため池の管理が放棄され、稲作など人間の営みに寄り添ってきた生き物がすみかを失う。
 環太平洋連携協定(TPP)が発効すれば、農業、ひいては里山、里地のさらなる変貌は避けられないだろう。果たして生物の多様性が守られるか。心もとない。
 ゲンゴロウが絶滅しようと人間の生活に影響しない、とたかをくくってはなるまい。多様な生物が網の目のようにつながり、それぞれに役割を果たしているのが生態系だ。網はほころび続ければやがてもたなくなる。つけはいずれ、人間社会に回ってくる。
 生物多様性条約と気候変動枠組み条約は、ともに1992年に採択された「双子の条約」だ。しかし、生物多様性への配慮は、地球温暖化防止の意識ほど社会に根付いたとは言い難い。
 変革は待ったなしだ。開発や生産、農耕、消費など人間の幅広い営みに関して生物多様性への影響を考え、評価する。そんな仕組みづくりを急ぎたい。
 生命のにぎわいを次代へつなぐのは、今を生きる者の責務である。

[京都新聞 2016年06月20日掲載]

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