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大震法見直し  予知に頼らない対策を

 地震予知を前提とする大規模地震対策特別措置法(大震法)の見直しに、ようやく政府が乗り出した。中央防災会議の下に新たな有識者会議を設け、年度内にも報告をまとめる見通しだ。
 静岡県の駿河湾周辺を震源とする東海地震は日本で唯一、直前予知の可能性があるとされる。この学説をもとに、1978年に東海地震に特化してできたのが大震法だ。
 制定から約40年、予想された岩盤の伸縮などの前兆現象は検知されず、その間に国が想定していなかった阪神大震災、東日本大震災が起きた。地震学の流れは変わり、東海地震についても東南海、南海地震と連動して起こる「南海トラフ巨大地震」の考え方がいまや主流になっている。法の抜本的見直しが必要なのは明らかだ。
 大震法は、前兆現象を受けて首相が対象地域に警戒宣言を出すと定めている。住民避難のほか、鉄道や店舗の営業停止、学校閉鎖などの大がかりな規制が静岡など8都県157市町村に及ぶ。
 一方、2013年にできた南海トラフ対策の特別措置法には、警戒宣言に伴う規制の定めはない。いまの科学では予知は困難との見地から、防災計画づくりや津波避難路の整備、高台移転といった備えを京滋を含む29都府県707市町村に求めている。
 矛盾の解消に向け、有識者会議では大震法の対象地域を南海トラフ地震で被害を受ける近畿・四国・九州にも広げるかが検討される見通しだ。ただ、社会的に影響の大きい警戒宣言の扱いをどうするのか、正確な予知が難しい中で大震法にそもそも意味があるのかなど、疑問は尽きない。より幅広い観点で議論する必要があろう。
 大震法は、日本の地震研究を予知に偏らせることにもなった。国の予算で東海地震の観測体制が充実した半面、他の地震や津波の監視は手薄といったアンバランスもある。
 いつ、どこで、どんな規模で被害が発生するか分からないことは4月の熊本地震でも実感された。これを機に、日本海側や内陸の地震活動も含め、全国的な観測体制の強化を進めたい。前兆とみるには不確実な異常現象を検知した場合に、どんな事前対策をとるのかも併せて検討すべきだろう。
 マグニチュード9級ともいわれる南海トラフ巨大地震では、津波などにより最大で死者30万人超、経済被害は220兆円に上ると想定されている。必要なのは、命や財産を守れる現実的な備えだ。

[京都新聞 2016年06月30日掲載]

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