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ホーム転落事故  見守り広げて防ぎたい

 東京の地下鉄で視覚障害者がホームから転落し、電車にひかれて死亡した。
 駅のホームは「欄干のない橋」にも例えられ、ほとんどの人が危険を感じた経験があるのではないか。目の不自由な人が歩く怖さはなおさらだろう。
 なぜ、痛ましい事故が後を絶たないのか。鉄道の施設面や人員態勢などの対策とともに、利用者ら周囲の見守りも広げて防ぎたい。
 事故は東京メトロの青山一丁目駅で起きた。盲導犬を連れてホームを歩いていた会社員男性が線路に落ち、直後に入ってきた電車にはねられた。まだ原因ははっきりしていないが、男性は徐々に線路側に寄り、足を踏み外すように落ちたという。前方に柱があって通れる幅が狭くなっており、転落防止用のホームドアはなかった。
 同様の事故は、2011年に全盲の男性が転落死した東京・JR目白駅など各地で相次いでいる。日本盲人会連合が同年に行ったアンケートで、視覚障害者の4割近くがホームから転落したことがあると答え、極めて危険という。
 転落防止の切り札とされるのが停車時のみ開くホームドアだ。国土交通省は目白駅の事故後、利用者が1日10万人以上と多い駅に設置を求めたが、大きく遅れている。全体でも今年3月末の設置数は665駅で数%にすぎない。
 京都市営地下鉄も東西線は1997年の開業時から全駅設置だが、それ以前の烏丸線は過去2年で3駅の設置にとどまっている。
 異なる乗降位置やホーム形状への対応に加え、費用負担がネックになっている。事故が激減する効果は実証済みであり、ロープやバーが昇降する方式など設置しやすく低コストの設備の実用化も進め、導入を加速させるべきだ。
 国は東京五輪を見据え、鉄道のバリアフリー化を掲げている。すでに訪日客増加で混雑も目立っており、目指す「観光立国」には安全対策への支援拡充が必要だ。
 一斉に整備できないため人の力が重要で、ホーム係員の増員を含め安全確認の強化が課題となる。利用者も点字ブロックをふさいだり、スマートフォンばかり見て歩くことが視覚障害者らの危険を高めかねないことを忘れてはならない。
 ホームの安全向上は、障害者だけでなく高齢者や子ども、酔った客らの事故防止や快適な利用につながる。周りに危険はないか、困っている人がいないか。「大丈夫ですか」と声を掛け、手を差し伸べる気配りを大切にしたい。

[京都新聞 2016年08月19日掲載]

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