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障害者のアート  支援の議論を深めたい

 障害者のアート作品の発掘や美術館展示、商品化などを進める新たな法案が、早ければ26日召集の臨時国会に議員立法で国会に提出されそうだ。
 提出の方針を固めたのは、超党派で作る「障害者の芸術文化振興議員連盟」で、東京五輪・パラリンピックに向け、障害者の芸術活動を盛り上げていくという。
 身体、知的、精神障害者による絵画や彫刻などの美術作品だけでなく、音楽、ダンス、演劇などを幅広く対象にし、国や自治体に(1)質の高いアート作品の発掘(2)創作活動の環境整備(3)国公立美術館での展示機会の確保(4)作品の販売や商品化の支援-などを求める内容だ。財政・税制面での支援も視野に入れている。
 障害のある人の美術作品などは、近年になって注目度が高まってきたとはいえ、国内での創作環境や評価、流通のシステムは十分とは言い難い。その意味では支援が強化されることは望ましいことだ。
 ただ、福祉的な支援を重視するあまり、質を軽視した安易な評価や美術館への展示の強要につながるなら、障害者のアートにとってかえってマイナスになりかねない。法案の内容や運用を巡っては、専門家の意見を踏まえて丁寧に議論を進めてもらいたい。
 障害のある人のアートは、専門の美術教育を受けていない人の独自の表現として「アール・ブリュット(生の芸術)」などと呼ばれることも多い。日本では、1980年代半ばに始まった国連の「障害者の十年」の取り組みもあり、90年代以降に福祉施設での創作が活発化。美術館で関心を持つ学芸員が現れ始めたのもその頃だ。
 もっとも欧米では、収集家、画廊、美術館という美術制度の中で作品を流通させる仕組みができており、評価もきちんと行われるが、日本ではそうした制度がまだまだ成熟していない。多くの公的な美術館は今も収集対象にしていないのが現状だ。
 そんな中、近年は日本の障害者らの大規模な作品展がパリで反響を呼ぶなど海外での評価が高まり、滋賀県がアール・ブリュットを新生美術館の収集の柱の一つに据えるなど振興に力を入れる自治体が増えている。文化庁や厚生労働省も支援事業に乗り出しており、今回の法案提出の動きもこうした機運の盛り上がりと連動したものだろう。
 だが、支援といっても、障害者の創作活動には、多様な専門領域が関わる。芸術、福祉、教育、さらに創作物の流通やそれに伴う権利の問題には経済や法律も関係する。それらが複雑に絡み合う創作活動をどう支えていくのか。
 作品を「障害者アート」という枠組みに押し込めてしまうこと自体に懸念を示す声もある。創作上の社会的不利益をなくすことは必要だが、通常のアートから切り離された存在にすることで一般の人を逆に遠ざけてしまいかねないとの指摘だ。障害の有無を超えた評価の在り方は大きな課題の一つだろう。
 障害者の創作を支える望ましい形とは何か。法案を機に議論を大いに深めてほしい。

[京都新聞 2016年09月25日掲載]

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