社説 京都新聞トップへ

真珠湾慰霊  日米を超えた和解こそ

 安倍晋三首相が米ハワイ・真珠湾をオバマ大統領と訪問し、旧日本軍の攻撃で沈没した米戦艦の上に建つ「アリゾナ記念館」で犠牲者を慰霊した。真珠湾には1950年代に吉田茂、鳩山一郎、岸信介の3首相が訪れているが、ア
リゾナ記念館訪問は現職首相では初めてだ。
 注目された所感では、かつて敵対した両国を固い絆で結び付けた「和解の力」の意義を強調し、日米同盟でアジア太平洋地域の平和と安定に貢献する考えを示した。だが「不戦の誓いを貫く」とする一方、謝罪の表現は盛り込まなかった。
 今年5月のオバマ大統領の広島訪問に続き、太平洋戦争の起点となった地でも両首脳が慰霊をしたことで、日米の戦後史に一つの区切りをつけたのは確かだろう。これを日米同盟のための「和解」に終わらせず、中国、韓国などアジア諸国との和解へとつなげていけるかが首相に問われる。
 首相が所感で強調したのは、日米和解が米側の「寛容の心」で実現したという点だ。真珠湾攻撃の際に米軍基地に突入した旧日本海軍の飯田房太中佐の記念碑が米軍によって建立された経緯や、米国が日本に再び国際社会へ復帰する道を開いてくれたことに触れ、感謝の言葉を述べた。
 首相にすれば、激戦を繰り広げた日米が謝罪を前提とせずに寛容の心で和解する姿を世界に示すことで、歴史問題で謝罪を迫る中国などをけん制する狙いもあったのだろう。だが「謝罪なき和解」をアジアでの歴史問題の解決のモデルにするのは容易ではない。
 実際、今回の真珠湾訪問について中国紙は「いわゆる『和解外交』は『和解』の本質をゆがめ、被害者の感情を傷つけている」と批判。中国国営テレビも「米国の老兵の声」を紹介する形で「日本が最もすべきことは中国への謝罪だ」と繰り返し報道したという。
 首相は昨年の戦後70年談話で歴代内閣が謝罪を続けてきたことを紹介し、「歴代内閣の立場は今後も揺るぎない」として理解を求めた。しかし自らの言葉として謝罪したわけではない。
 日米などの歴史学者らは首相のハワイ訪問を前に「公開質問状」を発表し、真珠湾の犠牲者を慰霊するなら、アジア諸国の戦争犠牲者も慰霊する必要があるのではないかと訴えた。同感である。
 無謀な戦争に突き進んだ過去を棚上げせず、行動で互いの視線を和らげていく。首相が言う寛容の心は、その先にしか生まれまい。

[京都新聞 2016年12月29日掲載]

バックナンバー