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金正男氏暗殺  背後の影を解き明かせ

 黒い影を感じ、なんとも薄気味悪い。
 北朝鮮の金正男(キムジョンナム)氏が暗殺された。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄であり、故金正日(キムジョンイル)総書記の長男として後継者に目されていた人物である。
 だれが、なぜ。さまざまな情報が流れ、諸説が入り乱れている。そうした中で当の北朝鮮は沈黙している。いや応なく独裁者の存在が浮かび上がってくる。
 マレーシアのクアラルンプール空港での白昼の凶行だ。正男氏に近づいた女性が毒物をスプレーで吹きつけたと見られている。現地警察は女性2人を拘束し調べている。まずは事件の解明に全力を挙げることが肝要だ。
 疑われている通りに北朝鮮が関与しているとしたら、マレーシアの主権に対する重大な侵害だ。北朝鮮は過去に海外でテロ事件を起こしたとされる。1983年にはビルマ(現ミャンマー)の首都で韓国の全斗煥(チョンドゥファン)大統領(当時)を狙った爆弾テロを強行した。
 北朝鮮は否定するが、こうした国家による無法な行動が、国際社会に不信感を植え付けたといえる。核開発やミサイル発射実験を繰り返すことへの不安にもつながっていよう。
 正男氏は北朝鮮では神格化されている故金日成(キムイルソン)主席の孫にあたる。しかし、2001年に偽造旅券で日本に入国を図り拘束されたあと、後継の可能性は消えていた。
 後年はマカオなどで生活し、メディアに「3代世襲に個人的には反対だ」と話していた。正恩氏が後継者に決まると政治的な発言を控えていた。その正男氏が殺害されたのはどうしてか。
 韓国の情報機関によると、金正恩体制の5年間で幹部約140人が処刑され、その中には叔父の張成沢(チャンソンテク)元国防副委員長もいた。張氏は正男氏の生活を支えていたと言われる。
 そこから、自身の障害になり得る人物を次々粛清していく独裁者の恐怖政治がうかがえる。毒殺テロを覆う闇を晴らさなければならない。
 世界中から向けられた疑念の目に、北朝鮮ははっきり応えるべきだ。
 正男氏は中国当局の保護を受けていたと言われる。北朝鮮との関係は冷えているとはいえ、最大の後ろ盾である中国には積極的に真相解明に動いてほしい。
 核武装をめざす近隣の国が、予測不能な体制にある。日本と中国、韓国は連携を強めて北朝鮮に向き合っていくしかない。

[京都新聞 2017年02月17日掲載]

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