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おとり捜査  危うさ示す再審無罪だ

 日本に拳銃を持ち込んだとして銃刀法違反の罪で実刑を受けたロシア人の再審で、札幌地裁は無罪判決を言い渡した。
 しかし、焦点だった「おとり捜査」の適否については、判断を示さなかった。おとり捜査の実態も徹底解明されず、極めて残念だ。
 再審開始の決定は「銃器犯罪に縁のない男性の犯意を誘発させた」と、おとり捜査の違法性を認めていた。結局、適否は判断されなかったが、再審を通じおとり捜査の危うさが示されたと言えよう。
 共謀罪の議論が高まるなかで、弁護士や市民の間からは、盗聴やおとり捜査が横行し、密告や内通がはびこる社会にならないか、危惧(きぐ)する声が上がっている。
 ほとんど知られていない、おとり捜査の実態はどのようなものか。注意を向ける必要があろう。
 そもそも今回のおとり捜査は、元警部の証言がなければ隠されたままになっていたかもしれない。
 元船員のロシア人は1997年、北海道・小樽港でパキスタン人から拳銃と中古車の交換を持ちかけられ、父親の拳銃を持参して現行犯逮捕された。パキスタン人は北海道警の捜査協力者で、元警部が外国人に拳銃を持ち込ませるよう指示していた。
 元警部は摘発のノルマが課せられ、「実績をつくるためなら何をしてもいい」と考えたという。
 2年前、静岡県警でも覚醒剤事件でおとり捜査が明らかになり、静岡地裁は「まさに捜査機関が犯罪をつくり出している」と厳しく指摘している。
 警察は真剣に受け止め、おとり捜査の経緯を調べて共有し、再発防止への姿勢を見せてほしい。
 おとり捜査には、犯意のある者に犯罪の機会を与える「機会提供型」と、犯意がない者に働きかけて犯罪を行わせる「犯意誘発型」の二つがあると言われる。
 おとり捜査を有効とする最高裁判例はあるが、批判的な学説もあり、無限定に認められるものではない。誘導し罪に陥れるなど許されるはずもない。
 米国では、テロ対策を名目におとり捜査が広がっている。FBI(連邦捜査局)は1万5千人の情報提供者を雇い、潜入させているとの報道もある。
 イスラム過激思想に共感する者に情報提供者が接近し、テロ計画に誘い込む、おとり捜査が多用されている。同時テロを経験した米社会は容認していると言われる。
 共謀罪はテロ等準備罪に名前を変えて国会で議論の最中だ。おとり捜査にも目を向けたい。

[京都新聞 2017年03月08日掲載]

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