社説 京都新聞トップへ

第三者卵子出産  法の整備は待ったなし

 病気で妊娠できない女性が、見ず知らずの第三者から卵子をもらい、体外受精により出産したことが分かった。ほかにも2人が妊娠中で、年内に出産予定という。
 国内で匿名の第三者からの提供卵子を使って子どもが誕生したのは初めてとみられる。不妊に悩む女性らにとって朗報に違いない。
 ところが、現行の民法は夫婦以外の第三者がかかわる生殖補助医療を想定していない。親子関係の明確化や子どもが出自を知る権利の保障などルールづくりが進まないまま、現実が先行した形だ。生まれてくる子、子を望む夫婦、助ける人それぞれの権利に配慮して法整備を急がねばならない。
 不妊治療を支援する神戸市の団体が仲介し、匿名の女性が無償で卵子を提供した。支援は卵巣形成不全などの患者夫婦に限定され、出産したのは早発閉経の40代女性で、1月に女児が生まれた。一方で海外では加齢による「卵子の老化」で妊娠できない女性も治療対象とされ、海外に渡って卵子提供を受けて出産する例が年間300~400人に上るとみられる。
 卵子提供による出産より特別養子縁組を勧めるとの意見もある。だが「妊娠、出産、育児を通して『生きる希望』ができた」という出産女性の心情も理解できる。
 日本では生殖医療をめぐる社会的合意や法規制が遅れ、親子関係については、産んだ女性を母とする判例があるだけだ。遺伝的には卵子提供者のDNAを受け継ぐため、親子関係に疑義や混乱が生じかねない。子どもの人権も保障されるとは言い難い。自民党は昨年3月、卵子提供の場合は子を産んだ女性を母とするなどと定める民法の特例法案をまとめたものの、国会提出に至っていない。
 今回の支援団体は当事者同士の面会を認めず、生まれた子どもが15歳になって希望すれば卵子提供者の名前などを告知するという。だが、社会的に認知されたルールではない。提供者から卵子を採取する際の医学的リスクにも配慮が要る。見切り発車する前に議論を深めておくべきではなかったか。
 不妊治療とは別に、晩婚化・晩産化に伴う「卵子の老化」を避け若いうちに自分の卵子の凍結保存を考える人が増えている。体外受精した受精卵に染色体異常がないか調べた後、母体に戻す「着床前スクリーニング」の臨床研究も近く始まる。こうした生殖医療の進展に法的、倫理的、社会的な課題解決が追いついていない。もはや法制度の整備に猶予はない。

[京都新聞 2017年03月29日掲載]

バックナンバー