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人づくり  無償化の効果が見えぬ

 安倍晋三首相が衆院選で公約した幼児教育・保育や高等教育の「無償化」を柱とする2兆円の政策パッケージが閣議決定された。
 社会全体で子どもと子育て世代を支え、老若男女を問わず意欲のある人の就労や学びを後押しする。長寿化と人手不足の中、そうした方向性は重要だ。
 問題は、巨額を投じて無償化を優先することが、目下の課題の解決に効果的なのか、という点である。
 政策パッケージでは、2歳児までの保育料と大学授業料の無償化を低所得世帯に限定した一方、3~5歳児については認可保育所、幼稚園、認定こども園に通う全員を支援の対象とした。
 保育の受け皿が足りない現状で、無償化すればどうなるか。利用希望者がさらに増え、入園先を探し回る「保活」も待機児童も解消されないのではないか-。保護者のこうした懸念の声に、政府は明確に答えていない。
 家計に余裕のある世帯ほど恩恵が大きい点も見過ごせない。認可保育所の利用料は所得水準の高さに応じて上がるため、一律の無償化は富裕層に有利な政策だ。懸案だった認可外施設の扱いは今後の専門家の議論に委ねられたが、支援対象が絞られれば、不公平感が一段と増すことになる。
 衆院選からわずかに1カ月半。与党内の議論すら不十分なまま、とりまとめを急いだ首相官邸の姿勢は「結論ありき」との批判を免れない。
 大学無償化をめぐっても積み残しがある。「高校時代の成績だけで判断せず、学習意欲を確認して支援対象を決める」という方針は、できるだけ多くの生徒にチャンスを与える点で理解できる。ただ、本人の向学心や入学後の教育成果をどう測るのか、透明で公平な制度設計は可能なのか、見通しは立っていない。
 社会人対象の「リカレント(学び直し)教育」やキャリアアップ支援を強化するのなら、まず既存施策の問題点を詳しく検証する必要がある。
 教育や人材育成は、とかく理念先行で政策効果の客観的な分析や検討がなおざりにされがちだ。保育の需要予測もこれまで甘さが目立つ。確かな裏付けと見通しなしに、消費税増税の貴重な収入をばらまくことは許されない。
 先進国で最悪水準の財政状況の下、2兆円の財源は財政健全化を先送りして確保する。その重みを政府・与党は肝に銘じるべきだ。

[京都新聞 2017年12月09日掲載]

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