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iPS論文不正  チェック機能の検証を

 科学者の倫理が問われる不正がまたしても明らかになった。
 京都大は、iPS細胞研究所の助教が筆頭・責任著者を務めたiPS細胞(人工多能性幹細胞)に関する論文で、図や試験に捏造(ねつぞう)や改ざんがあったと発表した。
 いずれも論文の趣旨に有利なように操作されていた。大学の聞き取りに助教は「論文の見栄えをよくしたかった」と話したという。
 先端研究で医療などへの応用が期待されるiPS細胞研究への信頼を傷つけかねない行為である。
 助教の研究には、国の研究費や一般の人から募った寄付金の一部も使われていた。国民の期待を裏切ったと言われても仕方ない。
 ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏が所長を務め、世界をリードしてきた同研究所だが、実験のチェック体制は形骸化していた。
 同研究所では実験専用ノートを全研究者に配布し、3カ月ごとに知的財産の担当者に提出することを定めていた。記入に際して書き換え可能な鉛筆の使用を禁じるなどの注意書きも添えられていた。
 ただ、ノートやデータのチェックはほとんど行われていなかったという。先端研究の実験は専門性が高く、外部から検証しにくい。内部のチェック機能がずさんであれば、同じことが繰り返される。
 助教が有期雇用の研究者だったことも気になる。研究成果が雇用延長や次の就職に影響するだけに成果を出すことへのプレッシャーがかかりやすいとも指摘される。
 同研究所では教職員のほとんどが有期雇用だといい、山中氏も4年前のインタビューで「異常な雇用形態」と話し、モチベーション面での改善が必要としていた。
 人件費を圧縮し、短期間で社会に有用とされる研究成果を期待する国の科学政策が若い研究者の焦りを誘発することにつながっていないか、考えなければならない。
 研究不正を巡っては、新たな万能細胞だとして発表されたSTAP細胞の論文が捏造とされたり、製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤に関する臨床試験のデータ改ざん疑惑が刑事事件に発展したりしたことなどが記憶に新しい。
 国などはその都度、対策の指針や規定を設けてきたが、仕組みが機能するかどうかは研究者の倫理観や良心に負う部分が大きい。
 今回の不正で、助教と論文の共著者たちの間にどんなやりとりがあったのか、誰も捏造や改ざんを見抜けなかったのか。大学は経緯をしっかり検証し、再発防止に努めてもらいたい。

[京都新聞 2018年01月24日掲載]

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