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日野町事件  再審開始を急ぐべきだ

 1984年に滋賀県日野町で酒店の女性経営者が殺害され金庫が奪われた「日野町事件」で、強盗殺人罪で無期懲役が確定した阪原弘さん=2011年に75歳で死亡=の再審開始を大津地裁が決定した。
 地裁は、有罪確定の決め手になった阪原さんの自白は、任意の取り調べで警察官から顔を殴られるなどの暴行や、娘の嫁ぎ先も対象にした脅迫を受けた結果だと認め、自白の信用性を完全に否定した。
 地検は即時抗告せず、速やかに裁判をやり直す必要がある。逮捕からすでに30年。阪原さんは第1次再審請求審中に亡くなっている。自ら無罪を主張することはできない。検察は阪原さんの名誉回復に協力すべきだ。
 確定判決によると、阪原さんは酒代目的で店主を殺害、遺棄し、金庫を奪い山中に捨てたとされる。阪原さんは任意取り調べで犯行を自供したが、逮捕後は自白を強要されたなどとして、一貫して無罪を主張していた。
 阪原さんの家族が求めていた第2次請求審で弁護団は新証拠として、阪原さんが金庫を捨てた場所まで捜査員を案内する「引き当て捜査」の実況見分調書の写真ネガを提出した。弁護団の精査の結果、調書では「行き」とされていた写真が、実は「帰り」に撮影したものと分かったためだ。
 確定判決は、金庫を捨てた場所が犯人しか知り得ない事実として重要視していた。しかし今回、大津地裁は、阪原さんが警察官に心理的な支配を受け、誘導されて案内した可能性を指摘。調書の写真は入れ替えられたとして厳しく批判した。
 調書に、警察の作為が盛り込まれていたといえる。警察や検察の責任は極めて重大だ。見抜けなかった裁判官も、責任は免れない。
 今回の再審請求審で、大津地裁は積極的な証拠開示を指示。検察は遺体の解剖記録など千点を超える証拠を提出した。実況見分調書の写真ネガもその中に含まれていた。
 地裁は決定書で、一審段階でネガなどの新証拠が提出されていれば有罪認定に疑いが生じた、とまで指摘している。
 2年前の刑事訴訟法改正で検察に証拠の一覧表開示義務が課された。今回は裁判官と検察がそれを積極的に運用した成果だといえよう。
 一方で、検察に都合良く運用されている例もある。完全開示を義務化すべきだ。今回の決定は、改善の必要性を示している。

[京都新聞 2018年07月12日掲載]

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