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教育勅語発言  国民主権と相いれない

 教育行政の責任者として、見過ごせない発言だ。
 柴山昌彦文部科学相が就任後の記者会見で戦前の教育勅語について「いまの道徳などに使えるという意味で普遍性を持っている部分がある」と述べた。同胞を大切にするといった基本的な内容をアレンジして教えていく、という動きを紹介し「検討に値する」と語った。
 教育勅語は、明治天皇が「臣民」に守るべき徳育を示した規範集だ。天皇が国民に教え諭す形を取っている。1890年に発布され、軍国主義の精神的支柱となった。敗戦後の1948年に衆参両院が排除や失効を決議し、歴代内閣が受け継いでいる。
 戦争がもたらした多大な犠牲は、教育勅語による教育の帰結ともいえる。教育勅語は日本国憲法の国民主権とは相いれない。
 万一、国が非常事態に直面すれば命をかけて皇室を守りなさい、という文言が教育勅語にはある。
 親孝行や家族の和を大切にするなどの徳目もあるが、それらも皇室の永続性に寄与するため、というのが勅語の本質である。
 本質を直視せず一部を利用するのは許されない。歴史修正主義として国際的にも批判を受ける可能性がある。
 安倍晋三首相の周辺には教育勅語容認論を持つ人が少なくない。
 2017年に防衛相だった稲田朋美氏が評価する発言をした。安倍首相を熱烈に支持していた人物が経営する学校法人「森友学園」では、幼稚園児に教育勅語を唱和させていた。
 柴山氏は5日の会見で「教育勅語を復活させると申し上げたわけではない。道徳なども含めて教育現場に活用する考えはない」と釈明した。
 一方で、教育勅語をアレンジして教える動きを「検討に値する」とした発言については「一部の個人や団体で検討する動きがあり、それは理解できる」と述べ、教育勅語を否定しなかった。
 戦前の政府は教育勅語を都合良く解釈し法律や政令などに反映させた。文科行政が今後、柴山氏の歴史認識に左右されないのか、懸念が残る。
 菅義偉官房長官は「政府として現場で活用する考えはない」と明言した。政府は17年の稲田氏の発言後、「憲法や教育基本法に反しない形での教材使用は否定しない」とする答弁書を決定した。
 教育勅語は歴史的事実としてのみ扱えるということだ。確認しておきたい。

[京都新聞 2018年10月06日掲載]

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