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米核実験  冷戦に逆戻りする気か

 新たな冷戦につながらないか、深く憂慮する。
 米国が昨年12月、プルトニウムを使い、核爆発を伴わない臨界前核実験を実施していたことが分かった。
 トランプ政権下で初の実験だ。「核なき世界」を掲げたオバマ前政権の方針を転換させ、今年2月に「核体制の見直し(NPR)」を打ち出し、核兵器の役割拡大をめざす方針を表明していた。
 中国、ロシアによる核の近代化加速を理由に挙げるが、一方の中ロも対抗して核戦力の増強に走れば悪循環に陥りかねない。中国との貿易摩擦も激化している。
 かつての冷戦時代を思い起こす。核による報復をちらつかせて相手国をけん制する、核抑止の発想が露骨にうかがえる。
 加えて、北朝鮮に非核化を迫りながら、核兵器の強化を図るというのでは、身勝手すぎないか。北朝鮮だけでなく、周辺国の中国やロシアも警戒を強め、非核化交渉を難しくするのではないか。国際社会の理解も得られまい。
 臨界前核実験は、プルトニウムに爆薬で衝撃を与え、核分裂の連鎖反応が続く「臨界」にならないようにしてデータを得る。オバマ前政権が2012年に実施した後はなく、5年ぶりに復活させた。
 トランプ氏は「核体制の見直し」方針で、競合国を圧倒する「比類なき」核戦力を追求する姿勢を鮮明にし、「使える核兵器」の開発にも踏み込んでいる。
 今年12月に核兵器の向上に向けた別の臨界前実験を行い、その後も定期的に続けるという。大統領の指示があれば、1992年から封印していた地下核実験を再開する体制も整っているようだ。
 しかし、昨年の出来事を振り返りたい。国連総会で核兵器禁止条約が採択され、条約推進に貢献した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」にノーベル平和賞が贈られている。
 こうした国際社会で高まる核兵器禁止の機運に、トランプ氏は背を向け、むしろ核強化に前のめりになっている。
 今こそ戦争被爆国である日本の姿勢が問われる。核の傘の下にあるとしても、核廃絶への使命を唱えるのなら、安倍晋三首相はトランプ氏にせめて憂慮の念を示すべきではないか。
 近く2度目の米朝首脳会談が開かれる見通しだ。核の増強より、朝鮮半島の非核化にチャレンジする時ではないか。

[京都新聞 2018年10月11日掲載]

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