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元徴用工訴訟  日韓に影落とす判決だ

 日韓国交正常化交渉で「解決済み」だっただけに、問題を蒸し返す火種を作ったのは残念だ。
 第2次大戦時に日本に動員された韓国人の元徴用工4人が、新日鉄住金(旧新日本製鉄)に賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、韓国最高裁はきのう、二審のソウル高裁判決を支持して個人請求権は有効と判断、請求通り4億ウォン(約4千万円)を支払うよう命じた。
 北朝鮮の非核化や拉致問題の解決、東アジア地域の安定には日韓の連携強化が欠かせない。確定判決は日韓関係に大きな打撃とはいえ、両政府は対話を通じて乗り越える道を探ってもらいたい。
 植民地時代の朝鮮半島出身者が日本に徴用され労働を強いられたとして、日本政府や企業に補償を求めていた。だが日本政府は請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場だ。
 協定は請求権問題が「完全かつ最終的に解決されたことを確認する」と明記。2005年にも改めて検証され、韓国政府も同じ認識だったはずだ。ところが、韓国最高裁は12年、今回訴訟の上告審判決で、協定では個人請求権は消滅していないとの初判断を示し、審理を高裁に差し戻した。
 新日鉄住金の敗訴確定は、対日関係の悪化を危ぶんだ朴槿恵前政権と最高裁が癒着し、意図的に審理を遅らせたとの疑惑が浮上し、反日世論が後押ししたとの指摘もある。請求権協定という国家間の合意は重要であり、世論の圧力で司法判断が左右されたとすれば割り切れない。日本政府が戦後の日韓協力の枠組みを揺るがすとして反発するのはもっともだ。
 同種訴訟は他に14件あり、被告は70社を超す。日本企業の敗訴が相次ぎ、巨額の賠償が認められれば打撃は計り知れない。仮に日本企業が賠償支払いを拒めば、韓国内の関連資産が差し押さえられる恐れがある。日本企業は対韓投資を縮小・撤退し、観光客の往来にも影を落としかねない。
 一方で協定合意当時の韓国は軍事政権下で、元徴用工の思いが十分に届かなかったことを理解する必要もあろう。両国政府は知恵を出し合い、冷静に対応してほしい。
 両国間には、従軍慰安婦問題など敏感な問題がくすぶり続ける。とはいえ未来志向の関係をうたった「日韓共同宣言」から20年を迎え、交流は盛んになっている。互いに支え合うべき隣国であり、双方が冷静に状況を見据え、元徴用工問題が日韓関係に悪影響を及ぼすのを極力避けねばならない。

[京都新聞 2018年10月31日掲載]

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