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認知症対策  数値目標より共生実現を

 認知症対策を強化するため、政府は「予防」を柱とした新たな大綱の素案を示した。
 認知症の人数を抑制する初の数値目標を導入し「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」と明記した。実現すると、70代の認知症の人の割合が約1割減少することになるという。
 認知症の高齢者は2015年時点で約520万人だったが、団塊世代全員が75歳以上となる25年には、5人に1人に当たる約700万人に達すると推計されている。
 政府は、15年に策定した国家戦略(新オレンジプラン)で、「共生」を掲げ、かかりつけ医の相談に乗る「サポート医」や、市民サポーターの養成を推進してきた。
 大綱はこれに代わるもので、「共生」とともに「予防」を2本の柱に据える。認知症になる年齢を遅らせ、社会保障費の抑制につなげるのが狙いだ。
 認知症が予防できるなら、誰もがそうしたいと思うだろう。だが目標の達成は不透明と言わざるをえない。科学的な根拠が不十分なためだ。
 認知症の根本的な治療法は確立していない。予防には運動や健康的な食事、禁煙が推奨されているものの、その効果は立証されていない。
 大綱は予防の具体策として、公民館など身近な場での体操や教育講座を想定している。運動や人との交流が発症を遅らせる可能性があるというが、どこまで確かなものだろうか。
 一方で見逃せないのが、当事者や家族の声だ。
 予防重視の方針と目標設定に「認知症になった人は努力が足りないと思われるのでは」との懸念が出ている。数値目標が一人歩きする心配もある。
 認知症は誰がなってもおかしくない。よく食べ、よく運動し、たばこをまったく吸わない人でも発症する。
 「予防」が前に出て「共生」がかすんでしまうことがあってはならない。政策の軸足はあくまで、認知症でも希望を持って生きられる社会をつくることに置くべきだ。
 政策に数値目標を掲げるのは悪いことではないが、根本的な原因究明が進んでいない中で、具体的に示すのは危険性が大きいのではないか。
 「認知症にならない社会をつくる」という誤ったメッセージになりかねない。政府はその点に留意すべきだ。
 6月の関係閣僚会議で大綱を決定するというが、数値目標設定の是非を含めてもっと慎重な議論を求めたい。
 今回の大綱は、これまでの国家戦略のように厚生労働省中心ではなく、官邸主導である。
 安倍晋三首相は昨年12月の関係閣僚会議で、大綱策定に向けて「さらに踏み込んだ対策を」と指示を出した。数値目標は政策の「目玉」として無理やり設けたような印象もある。
 認知症は世界的にも重要な社会問題となっており、英国や米国、フランスも国家戦略などを策定している。
 最速で高齢化が進む日本の取り組みは注目されている。世界のモデルとなる共生社会の実現にこそ力を入れるべきだ。

[京都新聞 2019年05月26日掲載]

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