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参院選与党勝利  安倍政治は信任されたのか

 参院選で与党の自民、公明両党が改選議席と、非改選との合計でも過半数を確保した。
 参院の改憲勢力は国会発議に必要な3分の2を割り込み、安倍晋三首相の目指す在任中の改憲実現は練り直しを迫られよう。
 自民は6年前に大勝した改選議席数を減らし、公明は微増した。全体としては安倍政権が前面に掲げた「政治の安定」が選ばれたようにみえる。
 だが、10月に迫る消費増税の是非や、直前に浮上した老後資金2千万円問題に端を発した公的年金への不安でも、選挙中の世論調査などに表れた有権者の思いと与党の訴えには距離感があった。
 獲得議席数では一定の評価を得た形だが、本当に国民の信任を得たといえるのだろうか。
 野党側は消費税、年金を争点化して「安倍政治を変えよう」と訴えた。全国32の1人区で野党5党派の統一候補を立て、前回参院選に迫る10選挙区で勝利した。具体策までは一致できず、説得力ある「変化の受け皿」として存在感を広げるには至らなかった。
 京都選挙区(改選数2)は自民と共産党の現職が議席を守り、滋賀選挙区(同1)は野党統一の新人が競り勝った。

 選挙の勝利が目的化
 与党勝利による政治の安定は、「安倍1強」の継続を意味する。
 安倍氏は11月に首相通算在職日数が歴代最長となる。2012年の政権奪還以来、補欠選挙を除く国政選6連勝によって政権への求心力を一段と高めるだろう。
 長期政権の継続は、行政を監視すべき国会との関係をいびつにしている。選挙での勝利による政権の維持が目的化し、国会での説明や議論より優先されていることが、今回の参院選で露骨に表れた。
 直前の通常国会で、政府・与党は3月に本年度予算が成立すると、国政チェックの主舞台である衆参の予算委員会開催を拒み続けた。老後に2千万円の蓄えが必要とする金融庁金融審議会の報告書も政府は受け取らず、なかったことにして与党も議論を封じた。
 とりわけ年金問題では、政府が給付水準を点検して過去6月に公表していた「財政検証」を選挙前に出さなかった。データの裏付けを欠いたことで、与党が訴える年金制度の持続性と野党の批判がかみあわず、有権者の抱く将来への不安に応える議論が深められなかったことは否めない。
 都合の悪い事実を隠し、説明責任を果たそうとしない政府を、与党の数の力で国会が下請けのように追認し、法案を通過させていく。立法府の存在意義が問われる事態の進行は民主主義を危うくしかねない。
 そこまで政権維持にこだわる安倍氏が見据えるのが、宿願の憲法改正であることは疑いない。
 安倍氏は、事前情勢で「与党堅調」とみるや訴えの柱の一つに改憲を押し出し、衆参両院の憲法審査会がほとんど開かれないことに「憲法を議論しない政党を選ぶのか」と野党に批判を浴びせた。
 改憲勢力の維持を目指しつつ、国民民主党にも協力の秋波を送っており、3分の2割れを受けて野党側の対応も注目されよう。

 改憲への関心度低く
 ただ、安倍氏も自民改憲案4項目のうち「9条への自衛隊明記」を取り上げた程度で、他の自民候補からはほとんど聞かれなかった。与党でも公明は9条改憲には慎重姿勢を続けている。
 各種の世論調査でも関心度は低く、改憲問題が有権者の大きな判断基準となったとはいえまい。
 多数の力で議論を急がせようとする安倍氏の前のめり姿勢が各党の警戒感を増幅させている。いまなぜ改憲か。丁寧な説明で国民に理解を求めるとともに、さまざまな疑念に謙虚に耳を傾け、落ち着いて議論できる環境を整えられるかが問われよう。
 与野党が現在世代の不安に焦点を当てる一方、人口減少と少子高齢化が進む日本の将来をどう支えていくかの議論は影が薄かった。歴代最長をうかがう政権であれば、未来に責任を持つべきではないか。
 安倍政権が2度延期した消費増税は10月実施が確実となったが、米中貿易摩擦の長期化で陰る国内景気を冷え込ませかねない。政府は買い物のポイント還元など大型の景気対策を打つが、一過性で効果は不透明だ。

 負担先送りは避けよ
 6年半を経てもアベノミクスの「成長と分配の好循環」は見通せず、中核となる大規模金融緩和がもたらすひずみは限界に近づいている。安倍氏は雇用指標の堅調さを誇るが、担い手不足は介護や保育の現場を圧迫している。財政規律は緩み、先進国最悪とされる借金財政を健全化させる目標達成はかすんでいる。
 外交面でも「強固な同盟」の名の下に米国から通商交渉や安全保障上の負担増を迫られている。ロシアとの領土交渉や北朝鮮との直接対話方針でも手詰まり感をどう打開するのか。
 山積する課題を包み隠さず国民に提示し、将来世代に負担を先送りしないよう真摯(しんし)に説明と議論を尽くす姿勢こそ求められよう。

[京都新聞 2019年07月22日掲載]

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