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パワハラ法規制  防止義務だけでいいか

 厚生労働省が、職場のパワーハラスメント対策として企業に防止措置を義務づける方針を固めた。労働政策審議会の議論を踏まえ、来年の通常国会に関連法案を提出するという。
 社内への周知、啓発や相談窓口の設置などを検討しており、指針で明記する。セクハラ対策も強化し、取引先との関係で被害があった場合に加害者側の企業が取るべき対応を明確化する。
 しかし、焦点となっていた「パワハラ行為自体の禁止」は盛り込まれない見通しだ。
 具体的にどのような行動が違法となるのか定義することが難しいというのが理由である。法規制に高いハードルを示した形だ。
 連合の調査では、働く人の56%が「職場にハラスメントがある」と回答。都道府県労働局には、パワハラを含む職場の「いじめ・嫌がらせ」に関する相談が年間7万件以上寄せられている。
 パワハラを背景としたうつ病や自殺も相次ぎ、大きな社会問題となっている。防止義務だけで十分な規制となるかは疑問だ。
 周知や啓発はすでに取り組んでいる企業も多く、それでも根絶に至っていないのが実態だ。実効性のある対策にするには、法律で明確に禁止し、罰則などを設ける必要があるのではないか。
 審議会では労使の意見が激しく対立した。労働者側は「禁止規定は不可欠」とし、ハラスメントは違法だと明記することを求めた。
 経営者側は「適正な指導との線引きが困難だ」と難色を示した。有識者委員は「民法など関係法令との整理が必要だ」と慎重姿勢を崩さなかった。
 セクハラなども含む全ての嫌がらせ行為を包括的に規制する新法の制定についても議論されたが、見送る方向だ。
 厚労省は範囲が不明確になり、かえって対策が取りづらくなると判断したという。
 日本の法整備は遅れている。国際労働機関(ILO)の調査では、日本はハラスメントに対する規制が「ない国」との位置づけだ。
 ILOは昨年、仕事に関するあらゆるハラスメントを禁止する方針を決めた。来年には条約を制定する予定で、実現すれば初の国際基準となる。
 働く人の心身と生命を守るため、職場環境の改善は最優先で取り組まなくてはならない課題だ。ハラスメント対策はその大きな柱である。踏み込まないと、ますます遅れることにならないか。

[京都新聞 2018年11月19日掲載]

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