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台湾にF16売却  米中対立の深刻化懸念

 米国と中国の対立がさらに深刻化し、通商問題から安全保障にまで拡大することを懸念する。
 トランプ米政権は、台湾にF16戦闘機を売却する方針を固めた。最新型の66機で80億ドル(約8500億円)相当に上る。米台間の武器売買として最大規模で、戦闘機の売却は約27年ぶりとなる。
 中国との貿易摩擦が激しさを増す中、安保面でも台湾にてこ入れをして圧力を強める動きといえよう。
 これに対し、「一つの中国」を掲げる中国政府は「主権と安全に損害を与える」と猛反発している。東アジアの安保情勢の緊張が高まりかねない。
 F16売却は、米政権の台湾重視をより鮮明にするものだ。対中強硬派のボルトン大統領補佐官らを擁し、高官交流の促進を法制化するなど関係強化を進めてきた。
 米国防総省が6月に発表したインド太平洋の新たな安保戦略では「強く確かな台湾が、中国に攻撃を思いとどまらせるために重要」と位置づけた。7月に戦車や地対空ミサイルの売却を決めた。
 念頭にあるのは、中国の軍拡路線への強い警戒だ。南シナ海の軍事拠点化などの海洋進出に対し、米国は軍艦による台湾海峡通過を繰り返している。
 一方で、台湾では戦闘機や潜水艦など装備の老朽化が目立っており、中国との軍事力格差への危機感が強まっていた。
 米国は1979年に中国と国交を樹立して台湾と断交したが、台湾関係法を制定して防衛支援をしてきた。ただ、中国に配慮して新型の兵器、数量を控えるなどして調整してきた経緯がある。
 F16売却に踏み切ったのは、難航する中国との貿易協議に台湾問題を絡め、譲歩を引き出したい米政権の思惑もうかがえる。
 だが、中国は7月に米国が戦車売却を承認したのに対して米企業への制裁を発表。今回も実施するなら「必ず強烈な対応を打ち出す」と警告している。
 香港情勢への関与に続くF16売却は、ナショナリズムを強める中国の習近平政権の態度をさらに硬化させるのは確実だろう。地域の不安定化を招きかねず、貿易交渉のカードにすべきではない。
 中国は、台湾周辺で頻繁に空軍機を飛行させており、今月には中国から台湾への個人観光旅行を全面的に停止した。来年1月の台湾総統選をにらみ、独立志向の蔡英文政権への圧力とみられ、こうした振る舞いを慎むべきである。

[京都新聞 2019年08月20日掲載]

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