Kyoto Shimbun 1999.2.15 私の経営論
 能力発揮できる環境に
  任天堂社長 山内 溥氏

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 不況の出口が見えない中で、任天堂は順調に業績を伸ばし、3月には新本社ビルを京都市南区上鳥羽鉾立町に着工する。テレビゲーム業界は、ソニー・コンピュータエンターテインメントの32ビット、任天堂の64ビット機に続いて、セガ・エンタープライゼズが昨年末、128ビット機を発売するなどシェア争いが過熱の様相。「21世紀をめどに引退」を表明する山内溥社長に、業界の将来、任天堂の経営哲学などを聞いた。

 冒険に挑戦する姿勢

 ―今年で社長に就任して50年。振り返ると。

 「任天堂は長い間、試行錯誤を繰り返し、苦難の道を歩んできた。鳴かず飛ばずの中小企業で、いつつぶれても不思議ではないと言われてきた。しかし、『だれも考えていないことをやる』というのが私の一貫したやり方。もし、それで失敗しても仕方がないと思ってきたが、結果として、幸運に恵まれ、大変身を遂げることができた」

 ―独創性を重視した経営の秘けつは。

 「任天堂の特徴は、常に冒険に挑戦する姿勢だ。それを失えば、『ただの会社』になる。しかし、もたれあいの日本社会の中で、人が考えていないことをやるには、強いリーダーシップが必要で、勇気がいる。私は、任天堂を常にチャレンジできる、ゆとりのある企業にしたいと思ってきた」

 ―引退のめどを21世紀としているが。

 「人間は有限でしょ。私に辞めろと言う人はいない。自分で決めるしかない。ちょうど、きりの良いのが21世紀。私は、自分が目指してきた任天堂の路線が、現実との間にどれぐらいの違いが生じるのかを、見届けたいと思っている。ぜいたくかもしれないが、思った通りになって、会心の笑みがこみあげる中で辞めることができたら、これほどありがたいことはない。その節目で、決断したい」

 商品に創意工夫必要

 ―厳しい消費不況が続いているが。

 「景気の悪いのは確かだが、テレビゲーム業界に関しては、売れないのは不況だけが原因ではなく、ソフトが楽しくなく、おもしろくないからだ。昨年10月に発売した携帯型のゲームボーイカラーは、年末までに国内で210万台出荷した。ゲーム機がなくても生活に支障はないが、1台8、900円のゲームボーイカラーが月100万台も売れている」

 ―ゲーム市場は、まだ拡大するだろうか。

 「日本の消費者は他の国に比べて豊かであり、欲しい者があれば買うということだろう。日本経済は金融システムの問題などを抱えているが、売れるものをいかにして市場に出すのか、創意工夫が必要だ」

 ―セガが新しいゲーム機を出した。どう見るか。

 「新しいハードで、ゲーム機市場のシェアを獲得しようという発想はもはや通用しない。ソフトも難しくなりすぎている。『ポケットモンスター』が長寿命なのは、単純でおもしろく、飽きられるころに、次の仕掛けを提供しているから。利用者が自分の世界を作ることができるようにしたのも成功の原因だ」

 ―新本社ビルや次世代のゲーム機開発など今後の経営方針は。

 「新本社ビルには、2000年11月に移転したいと思っている。ユニークな路線を継続し、才能のある人が能力を発揮できる環境にしたい。新しいゲーム機については、任天堂の考え方を示せるのは今年の末ごろになるだろう。2000年を目標に考えている」

(政経部 藤木泰嘉)

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