Kyoto Shimbun 1998.6.23

「これからは人の善意を導
き出すシステムをデザイン
する時代」と語る平井教授
 環境問題 科学で解決を
 立命館大教授  平井 孝治さん

 ―若いころ、理系から社会科学系へと専門を変えられたわけは。

 「九州工業大で制御工学を学び、九州大大学院では応用数学を専攻。三十歳のころ、社会科学へと変わりました。当時、公害が社会問題化し、企業悪者論が言われていた。しかし、それでは解決にならない。何が問題なのかと。科学技術が高度化してくると、リスクを負う人とベネフィット(便益)を受ける人とが人格的にかい離してくる。

 圧倒的に便宜を受ける人たちだけで意志決定してしまう。そこで社会的意志決定の回路を取り戻すのは社会科学だと思ったわけです。しかもマルクス主義経済学、近代経済学では解決しない。自然科学的なアプローチが必要ではないかと」

グローバルな学問領域を切り開く

 ―というと。

 「マルクス主義では価値の源泉は労働にあると。しかし、自然科学者としてみた時、労働とは自然界が持っている価値を引き出す行為ではと。今、環境問題を解決するアプローチは技術的、社会経済システム的、人文科学的―の三つの方法があるが、私としてはグローバルな学問領域を切り開かねばと思ったわけです」

 ―具体的には。

 「人の善意を黙っていても導き出すシステムをデザインする時代だと。専門からいえば、環境管理システムをどうデザインし、構築するのかと問題意識が変わってきました」

 ―ISO14000という言葉をよく聞くが。

 「JISの国際版で、国際標準化機構(ISO)が昨年発行した国際環境規格のこと。ISO14000シリーズの1番目は環境管理システムの仕様。これに準拠して、いろんな企業がシステムを構築して国際認証を取り付ける時代になっています。今、国内に千件あり、新しい職業として環境審査員ができている。環境庁が現在検討中ですが、九九年には公認環境監査人という資格ができます」

 ―どんな仕事ですか。

 「企業の経営活動を映し出すものは従来は会計報告書でしたが、これからは環境報告書を書く時代に入る。その報告書の内容が妥当かどうか、第三者の監査が必要になる。報告書を書く前にどんなシステムを作り、どういう活動をするのか。これからはいい製品を少量作る時代に入ります」

 ―具体的には。

 「これからはGNPは上がらず、企業でいえば売上高は変わらない。その中でどうやってみんなが食べていくか、社会経済システムを考える必要がある。それは少量でも良いものを作ること、同じ商品を付加価値の高いものにするしかない。これからは流通が二つの方向に流れると思います」

 ―どういう方向に。

 「一つはコンビニエンスストアの無人化に象徴される電子化。もう一つは商いの復権の道です。割り算をなぜ商というか。商いは分数でいえば分子と分母が相談した結果。市場で人と人とが出会い、この商品の内容はこうだと、この食べ物はこう料理するんだと言って売ったわけです。つまりグッズを売るのでなく、付加価値をつけて売っていた。それが近代化し、技術が高度化すると欠落した」

 ―どうすればよいと。

 「私は環境主権といっています。人類は環境便益の受益権があると。消費者は主権者、あらゆる組織の主権者は人々なんだと。でないと、企業に環境を汚すなという権利をどこに求めるのかということになる。  人々は元来、環境便益を受ける権利があり、それを守り子孫に継承する義務がある。だからそういう営為を営んでいる企業や組織の社長や理事長はそれについて説明義務がある。そして、商いは基本的には人と人との出会いにある。その意味で商いの復権、情報ルネサンスが環境問題の解決には不可欠です」


 ひらい・たかはる 1942年、京都市生まれ。九州工業大制御工学科卒、九州大大学院工学研究科応用物理学専攻(応用数学コース)博士課程中退。同大学工学部助手、名城大商学部助教授などを経て、九七年から立命館大経営学部教授。専攻は数理会計学、環境管理・監査論。流通業の環境管理システムと環境会計が研究テーマ。著書に「環境監査と市民の行動」「経営科学と経営シミュレーション」など。

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