ハイメ・ロペスさん

 南米大陸の太平洋側に面した国、チリ。赤道近くから南極にまでのびる細長い国土は、世界で最も地理的変化に富んだ美しい国のひとつ。ハイメ・ロペスさん(38)は、南北およそ4300キロに及ぶ海岸線のちょうど真ん中あたりの小さな町、リナレス近郊で生まれ育った。穀倉地帯でチリワインの産地でもある。実家も農家だった。

 専門学校を卒業した後、兵役についた。軍隊でさまざまな厳しい訓練を受ける中、もっとも痛切に感じたのは、「物事は自分自身で判断しないといけない」ということだった。軍隊で教えられることは必ずしも正しいわけではない。兵役を終えたハイメさんは自分の目で世界を見ようと、南米大陸をめぐる旅に出ることにした。

 出発の直前、ハイメさんは兄の勧めで針金細工を習得。「途中で金を奪われたり、追いはぎにあっても生きていけるように」との配慮からだった。針金を器用に曲げて自転車などのかわいらしいオブジェを作り、路上で作品を並べて売る。この商売で生活費を稼ぎながら、3年かけて南米を放浪した。ストリートチルドレンの生活をかいま見たり、南米の抱える問題を肌で感じる旅だったが、驚くべきことに、旅が終わるころには針金細工で貯金ができていた。その資金をもとに、オーストラリアに留学し観光学を学んだ。

 そこでも、同じように針金細工で生活費や学費をまかなった。しかも、その間、なんとチリに家まで購入したというから、びっくりである。チリに一時帰国後、世界一周航空券を購入し、再び旅に。向かった先はヨーロッパ。だが、各地を転々とする生活に次第に物足りなさを感じていく。そして、以前から関心を寄せていた日本で勉強してみようと思い立ったのは、30才のときだった。

 来日して、32歳で大学に入学。昨年、修士号も取得した。現在ハイメさんは、FMCOCOLOで「SALUDCHILE」のDJをつとめている。「日本での生活は日々の中で学ぶことが多い。日本はとてもいい国ですよ。できれば、ずっと住みたいですね」。自分の力で世界を歩んできた言葉には、力強い響きがあった。

 写真=空手のけいこでひざを故障。スポーツセンターでリハビリ中だ