顔が変わった。

 眉間(みけん)に、黒ペンで縦筋を引く。つり上がった目尻とまゆ。己をにらむ。

主役を追い詰める

 「あくの強い悪。客がほんま恐いと思うくらい。主役を追い詰め、追い詰めて。悪が強くないと(主役が)たたない」  東映京都撮影所(京都市右京区)の一室。福本清三さん(61)が仲間と並び、化粧をする。

 「福ちゃん、きょうは何やんねん」。「盗っ人や。(銭形)平次にやられるんやて」。強面 から、笑みがこぼれた。

 何でもこなす大部屋俳優。浪人や町人、船頭…、死体。15歳で京撮に入り、45年、底辺から芝居を支えてきた。

 時代劇全盛期、大部屋は400人以上いた。立ち回りができ、目立たないと役はない。食っていくには独自の斬(き)られ方がどうしても必要だった。

 「殺陣(たて)師の人が、こいつムチャクチャしよると思ってくれなあかん」

 死に方はだれも教えてくれない。先輩や西部劇の演技を見た。一番はチャップリン。「呆気(あっけ)にとられた。ズドーンと背中からいくんやから」

 体を張った。階段から転げ落ち、石灯籠(どうろう)や樹木にぶつかっていった。「頭打ったやろ、大丈夫かいなと思わせる。自分がほんまに痛くないと、人は驚きまへん」。さらに考え、ある気構えに達した。きっかけは、殺陣の名手・近衛十四郎さんとの立ち回りだった。

 「斬られにいくのではなく、本気で斬りにいく。こいつを斬って気持ちいい、と思われる」。近衛さんは刀を抜くのが素早い。斬られ方を考える前に、斬られた。斬られる快感を味わった。

えび反りで倒れる

 「思わずうわーと大声をあげ、体ひねってえび反りで倒れた。スターさんを盛り上げたかった」

 斬られた回数は2万回を超えた。鬼気迫る斬られ方は、「えび反り」と呼ばれる。「映ろうが、映ろまいが、一人の役者が気抜いたら画面 が死ぬ。陰の力は恐ろしい」

 家族は妻と2人の子ども。酒は飲まない。フリーが多い中、東映の俳優になれたことを素直に喜ぶ。「健康保険がありがたかった。子どもが病気したり、自分がけがしてもどんだけ助かったか」

 映画「ラスト サムライ」でハリウッドデビューも飾った。「わしみたいな者が何で…。この仕事が好きやっただけやのに。これまで頑張ってきたから、神様が褒美をくれたんかな」。共働きをし、苦しい時代をともに乗り越えてきた妻も手放しで喜んでくれた。

 最近、中学生から手紙が届いた。部活でレギュラーになれず不満ばかり。福本さんの姿に脇の仕事の大切さを知った、と。「うれしかった。ちょっと有名になり、驕(おご)りが出てきた時やったし。『無』でやっていた原点に戻らなあかん。老体にむち打ってでも」

 京都は芸能の街だ。芸に夢を持ち、磨き、人生をかける人々がいる。陽の当たる場所だけではない。脇で、裏で支える人がいる。そこに芸道の真髄が見える。芸に生きる人をたずねた。

 写真上=悪の顔をつくり、主役を引き立てる。怖く、鋭く(東映京都撮影所)

 
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