奥島清三さん(85)
川越芋(京都市中京区寺町二条上ル)

奥島清三さん
 書店やアンティーク店が建ち並ぶレトロでモダンな雰囲気が漂う寺町二条。通りに焼き芋の香ばしい匂いが漂っている。「おいでやす」。店の奥で腰掛けていた奥島さんは、焼きたてのサツマイモが並んだショーウィンドーに向かって歩きながら、客に声をかけた。

 創業約100年になる焼き芋店だ。レンガ作りの立派な釜が目を引く。「お芋3つか」と、茶色の紙袋にアツアツの焼き芋を入れ、はかりにかける。「500円です」。20年間、値段は100グラム80円は変わっていない。つえをつきながら、奥へ戻ると、休む間もなく、洗ったサツマイモに包丁を入れ、次に焼く準備を始める。「人間はうつむいてコツコツ働いていたら、いつかええことがある。飛ばしてたらあかん」と、ぽつり。釜に火が入っているため、店内は熱気がこもる。額には大粒の汗がにじんでいた。

大きな釜でじっくり焼いた焼き芋。焼き上がりは、ほっこりし、一日置くと甘味が増す
 妻のシズさんと3人の子どもを育てながら、酒もたばこもせず、焼き芋一筋で暮らしてきた。「小学校出てから、手伝っていた。あては勉強が嫌いでなぁ。2人の兄は勉強ができて、大学まで行ったんやけど、2人とも病気で死んでしもた。親がものすご泣いてなぁ。その姿を見て表に立ちましたんや」。父・彦次郎さんは、もともと京都市役所前に「鳥羽彦」という名前で焼き芋屋を開いた。当時、サツマイモの産地として名をはせていた埼玉県川越市のサツマイモを焼いたところ評判を呼び、いつしか屋号も「川越芋」になった、という。

 昨夏、シズさんが他界してからは、店を一人で切り盛りしている。朝7時過ぎに起きると、釜に火を入れ温める。2種類の新聞を丹念に読んだ後、ダンボール箱に詰まったサツマイモを洗い、ヘタを落とす。18個分に切り、釜に入れ、大きな木ぶたをかぶせる。朝食を済ませたころに、焼き芋は完成。シャッターを上げ、開店する。

「今日も元気やね」と常連客が声をかけていく
 近くに住む主婦、お使いに来た子ども、大学生、住職など、幅広い年齢層の人たちが訪れる。奥島さんが少し耳が遠いことを知っていて、指で焼き芋の数を示したり、ショーウインドーの上に置いてある新聞紙で包んで帰るなど、要領を得た常連客が多い。ある中年の男性が焼き芋一つ買っていった。「なーんもしゃべらん人やけど毎日、買いに来る。体にいいからやろかなぁ」と、奥島さんは目を細めた。

 普段はやさしい。近くの小学生がお店を調査する授業で「おいしい秘密は何?」と尋ねると「お菓子のように材料を組み合わせて作っていないので、私は何もしていません。農家の人がおいしいお芋を作ろうと思っているから」と答え、人数分の焼き芋を持たせて帰した。黒くこげたり、かけてしまうと、「お客さんに申し訳ない」と店頭から外す。

現在、使うサツマイモは四国産の「里むすめ」。焼き芋のほかに、大学芋もある
 だが少しでもルールを外すと、手厳しい。客が勝手に焼き芋を手でよると「触らんといてんか」と注意する。3人連れの学生が「焼き芋一つ」と言うと、「喫茶店でもコーヒー一つにストロー3本おくれやす、と言うんか」と突っ込む。がんこそうにも見えるが、筋を通す奥島さんを知る常連客は、自分の祖父のように親しんで、店先で「いつも元気やなぁ。私もがんばらんな」と声をかけていく。

 これから夏真っ盛り。焼き芋には厳しい季節だ。「売れんなぁ。重湯も食べられへんなぁ」と笑いながら、店の奥に置いてある真新しい釜とふたを見やった。「これを使うまでは、と思っているんやけどなぁ。どうやろなぁ」。(02年7月9日掲載)


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