京都新聞
紙面特集

秋季特別展Ⅱ
「百の手すさび」 近代の茶杓と数寄者往来
MIHO MUSEUM

人生の一端をすくう

岡橋三山作の茶杓には、幅1センチにも満たない表面に、精緻な山水図や般若心経が刻まれた
(宇賀志屋文庫蔵)

 茶器に入った抹茶を茶碗にすくい入れる「茶杓」に焦点をあてたMIHO MUSEUMの秋季特別展Ⅱ「百(もも)の手すさび 近代の茶杓と数寄者往来」が20日から開催される。シンプルな形に宿された作り手の美意識や人柄、茶杓の贈答による数寄者らの交流をたどる。

 茶杓は、木地や象牙、べっ甲なども用いられるが、多くが竹材で村田珠光が作り始めたとされる。古くは茶事や茶会のたびに作られ、消耗品として扱われた。千利休以降、作者への敬慕から筒に入れて保存するようになり、「茶杓は人なり」と大切に扱われてきた。茶人が「手すさび」として削った茶杓は、贈り筒に入れて交友のしるしとなったり、共筒に銘を記して思いを重ねられる。

 時代を経て、近代日本の政財界をリードした実業家たちも、茶の湯の数寄者として、自作の茶杓などを介し、互いの親交を深めたという。例えば、三井財閥を支え、近代数寄者の代表とも言える益田鈍翁(どんおう)作の茶杓、歌銘「年暮」は、名古屋の茶人森川如春庵(にょしゅんあん)の求めで作られたもの。師と仰ぐ鈍翁の体調をおもんぱかり、励みとなるよう依頼したとも想像される。病をおして削った鈍翁は茶杓を贈った1週間後に亡くなったといい、二人の絆の強さをしのばせる。

 同展は、竹芸家の池田瓢阿(ひょうあ)さんの監修のもと、利休や小堀遠州などの交流を回顧。鈍翁を中心に、高橋箒庵(そうあん)や小林逸翁(いつおう)など近代数寄者約30人と、上村松園や新島八重、谷崎潤一郎ら文化人や芸術家らも手がけた120点余りの茶杓を紹介。さらに、自作の茶碗や収集品約80点も展観し、時代を築いた数寄者の茶の湯に触れる。

 池田さんは著書「近代の茶杓」で「茶杓の見所というのは、その杓から語りかけられ、伝わってくる、作者の人生の一端といえる」と記す。一本一本を手がかりに、個性豊かな人物像や味わい深い物語を読み解くことができる。

見どころ

 茶杓の各部分には名称があり、「名所(などころ)」と呼ばれ、それぞれに作者の個性が感じられる(イラスト参照)。名所を中心に、茶杓の見どころをまとめた。

 まず、素材や全体像を見る。竹材が多いが、白竹のほかにいぶされた煤竹(すすだけ)や黒いしみの生じた浸(し)み竹など、さまざまな表情を「景色」として楽しむ。

 次に、抹茶をすくう先端部分の「櫂先(かいさき)」。茶人によって特徴的な型があり、この部分を見れば作者が想定できるという。「撓(た)め」は抹茶をすくう曲げの部分。茶杓を作る上での難所で、素材の性質や作り手によって違いが出る。中心を通る溝「樋(ひ)」は竹の自然な造形で生まれる。

 「節(ふし)」は形や位置によって、茶杓全体の印象を変える。節裏を深く削り込んだ形は「蟻腰(ありごし)」と呼ばれ、目を引く。「切止(きりどめ)」は作者が全体の長さを決めるポイントで、落とし方も一刀から五刀まである。


益田鈍翁作 銘「早舟」。
節止めに変化をつけ、舟の櫂(かい)のように
新島八重作 銘「㐂(よろこび)」
(同志社大茶道部蔵)。
77歳の時に自作したという
住友春翠作 銘「破窓」。
節上の薬研樋(やげんひ)が割れて風情が漂う
谷崎潤一郎作 茶杓 銘「細雪」(逸翁美術館蔵)。
代表作にちなむ。共箱の蓋裏(ふたうら)には、自作の一首も
益田鈍翁作 歌銘「年暮」。
筒には、源実朝の「武士の八十氏川をゆく水乃」の一首が記されている
上村松園作 銘「蜻蛉(かげろう)」。
共筒に2匹の赤とんぼが品よく描かれている
橋本関雪作 銘「沙羅椿(さらつばき)」
(白沙村荘橋本関雪記念館蔵)。
茶の湯を愛した、亡き妻の祭壇を飾った椿で削った
沙門地獄草紙 解身地獄 鎌倉時代(益田鈍翁旧蔵)。
社寺の調度品などを茶の湯空間に鑑賞用としてしつらえたのは、鈍翁のころからという
=展示は11月13日~12月2日
(MIHO MUSEUM蔵)
小川長楽作 寿字赤楽茶碗(同志社大茶道部蔵)。
茶碗の正面に「八十一才 宗竹」とあり、茶溜(ちゃだま)りの「寿」の字で新島八重を祝う
案内
■会期10月20日(土)~12月2日(日)月曜休館、一部展示替えあり
■開館時間午前10時~午後5時(入館は午後4時まで)
■会場MIHO MUSEUM(甲賀市信楽町田代桃谷300)
■主催MIHO MUSEUM、京都新聞
■入館料一般1100円、高校・大学生800円、小・中学生300円 20人以上は各200円割引
■問い合わせMIHO MUSEUM 0748(82)3411
■イベント&プログラム ▽講演会
(1)「茶杓について」(仮称)
 11月10日午後2時、竹芸家池田瓢阿さん
(2)「近代数寄者とは」(予定)
 11月17日午後2時、熊倉功夫館長
※いずれも定員100人。予約不要で当日整理券配布。無料

▽茶杓削り体験
(1)気軽に体験!
 10月25日、11月1、8、15、17、29日の午前10時半と午後2時(29日は午後のみ)。対象は中学生以上、各回10人、参加費1000円。
(2)本格的に体験!
 11月24日午前10時半と午後2時。講師は竹芸家の池田泰輔さん。対象は18歳以上、各回20人、参加費8000円。筒は別料金(希望者のみ)。エプロンと手袋を持参。
※いずれも事前予約が必要で定員になり次第締め切り。同美術館教育普及係0748(82)8036
【2018年10月16日付京都新聞朝刊掲載】