「発動 京都の工芸」

個性が響き合う共有空間
 繊維造形作家 小林正和さん・小林尚美さん
 ファイバーワーク(繊維造形)の有力作家である小林正和さんと小林尚美さんが、18日にシンガポールに向けて出発する。現地の新しい芸術文化施設・エスプラネーダーの多目的スペースを舞台に2人の作品と個性が響き合うコラボレーション(共同制作)を行うためだ。

 22日から3月30日まで開催されるコラボレーション展。正和さんは淡いピンク色に染めた絹糸がススキの若い穂を連想させる弓の造形約3千本を床面に設置して風にそよぐススキの原のイメージを演出する。尚美さんは、白いこより糸や和紙を使った円環造形を直径2・6メートルのものから2メートルまでの大・中・小3点を宙づりにし、宇宙的な韻律を透明感あるしなやかさで奏でる。

 タペストリーなどの平面作品を離れ、自由な織りの展開や立体的な造形表現を指向したファイバーアートのうねりが日本で高まったのは70年以降だが、その動向の中でトップランナー的な役割を果たしてきたのが正和さんや尚美さんだ。

 織るという行為以前の糸そのものの持っている美しさや性質に目を向けたのは正和さん。1本の糸を引っ張れば直線になり、ゆるめれば自重でたわみの曲線ができる。当たり前の糸の属性を空間に解き放し、たわんだ糸の集合が美しい波のイリュージョンを息づかせる作品や、細いアルミ棒や竹ひごを染め糸の弦で引っ張った弓糸造形を駆使した作品を多様に生み出してきた。

 一方の尚美さんは糸の束を積み上げたり、積層させ、糸の温かく柔らかな素材感のなかに主張のある強さや重厚感の息づく明快な構成の立体造形を発表。81年の「国際テキスタイル・トリエンナーレ」(ポーランド・ウージ)で大賞を受賞するなどの活躍が続いた。80年代末ごろからは、積層した赤やピンク色の糸束が大きな円環を形づくったり、こより糸と和紙で型ぬきした角柱造形をつないだ円環が中空に浮かぶ作品なども発表してきた。

 国内外の展覧会で数多くの受賞を重ねた2人が初めてコラボレーションを行ったのは90年の京都市四条ギャラリーでの企画展。以後、スイス・ローザンヌ、カナダ、米ノースダコタ、ソウル、国内では群馬県立近代美術館など、それぞれの個展の合間に20回近く開催してきた。

 北桑田郡京北町にあるアトリエで、互いの仕事を傍(はた)目に見ながら、創作に励んできた2人である。「この作品ならコラボレーションもいけるじゃんと、ごく自然な始まりでしたね」と正和さん。

 赤の他人との共同制作と異なり、夫婦としても作家同士としても、互いの個性が相乗効果になるベスト・カップルのコラボレーションというべきか。繊維造形の世界にあって貴重で珍しい発表の形態であることは確かだ。「かなり回数を重ねてきたし、互いに打ち合わせなしで新作をつくって出して、自然にコラボレーションになることを考えたい」と話す2人。

 コラボレーションのタイトルは「COSMOS(宇宙)」とすることが多い。宇宙的な空間の調和。見えない糸で結ばれた二つの個性が織りなすみずみずしい発表は、普遍的な色合いで鑑賞者を誘う。

 写真=「コラボレーションの新しい形も考えてみる時期かな」と話す小林さん夫妻

 

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