DISCOVER KYOTO -No.8-
 冬の京名物、辛味大根おろしそば

1998.11.27

soba
ひりひり辛味大根を薬味に使ったそば
 落ち葉しぐれがやっと始まった。そうだ、京都、鷹ケ峯を歩いてみよう。光悦寺へ行く途中に、立ち寄ったのが、鷹ケ峯で伝統野菜をつくる島本啓一さん。72歳。

 「畑にいますよって」と、いわれて住宅地の一角にある仕事場を訪ねた。入り口で京野菜の即売。小さなカブでしっぽのような長い根がついたカブラが辛味大根。そばの薬味はワサビかトウガラシというのが相場だが、冬の京ではこの辛味大根が薬味に使われる。辛味大根は鷹ケ峯で300年以上も前からつくられてきた京野菜。

 いまは2軒のみが栽培している。身がしまり、おろしても水分が少なく、なによりも、辛さは大根の比ではない。もうのどにひりひりする。この特徴を生かしてソバの薬味になった。

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しっぽのような根があ
る辛味大根     
 表千家のお茶会には、欠かせない薬味で、冬の京の味である。昔は大晦日の室町などで辛味大根おろしソバを年越しに食べた。ソバ屋はソバと、辛味大根をそのまま届け、食べる直前にすって、そばにのせて食べるのが習わしだった。

 「ソバもいいが、納豆にかけてあつごはんで食べるのもいける」と島本さん。納豆と大根の組み合わせは、確かに栄養価も高い。

 昨夜、久しぶりに飲んでしまい、食欲がいまひとつであったが、辛味大根を食べに、西賀茂のソバ屋まで歩く。紅葉は、例年よりも遅れている。急な冷え込みと木枯らしで、あわてて散り急ぐ並木の下で落ち葉を受ける幼稚園生たちの姿は絵になる。

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伝統野菜をつくる島本啓一さん(京都市北区鷹ケ峯)
 そば屋の「松庵」まできた。昼時をはずしていたのに、満員。主人の松宮清さんは、河道屋で26年、独立してここに店を持った。河道屋時代から辛味を使った縁で、島本さんから大根を入れている。

 「また来年、きます」と夫婦連れが席を立った。東京からのおなじみも多い。

 辛味大根おろしソバは、熱いのと冷たいものと、食べ方は二通りあるが、大根の香り、味は熱い方がいい。運ばれたソバは、ソバの上にすりおろした大根がのっているだけ。具はなにもない。シンプルな味だ。かきまぜて、すすると、のどがヒイヒイ、叫ぶ。ワサビのように鼻にこない。のどを通る時はひりつくが、腹に納まると、これがしっとりする。前夜の酒の重みがすうっと抜ける。出汁を飲み終わると、汗ばんでいた。出汁とソバ、辛味大根が、それこそ互いにからみあって、ひとつになっていた。ソバの腰がつよすぎてもよくない。

 「みなさん、この季節には、辛味はまだかまだか、といわはって、数をそろえるのに苦労しますが、すりおろしたての辛味とそばのあっさりした味が引き立つのが冬」と松宮さん。外へ出たら、満腹感があるのに、軽かった。

(粟津 征二郎)

【 鷹峯 】
 辛味大根 栽培と販売は北大路から市バス玄琢行き旭日丘中学前下車。通り西へ渡って高台の道を行くと住宅地の中に作業場と畑がある。野菜の即売もしている。

 ソバの松庵は西賀茂車庫出前の道を西へ。電話075(492)8028。辛味大根おろしそばの大で800円。河道屋でも辛味大根の薬味を使っている。


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