おもしろ話(48) ハリハリ鍋
安くておいしい関西の味
 

 ハリハリ、ハリハリ…。シャキッとみずみずしい水菜を食べると、口の中からそんな音が聞こえてきませんか?

食品画像
小さな勢子舟で巨大な鯨に組織的に挑む江戸時代の古式捕鯨の様子(『太地浦捕鯨之図』、太地町立くじらの博物館蔵)

 この新鮮な野菜にちなんだ名前をもつハリハリ鍋は、水菜の産地、関西ならではの料理。水菜と鯨肉を味わう鍋は、少しクセのある食材同士の組み合わせが絶妙です。

 今のように高級化したのは世界的な捕鯨規制で鯨肉が入手困難になってから。料理屋で出すものは上品に工夫されていますが、もとはといえば、安価な「ころ」をすき焼き風に甘辛く味付けた庶民的な「安くておいしい家庭のおそうざい」だったといいます。

 ころというのはマッコウクジラの脂肪の多い皮から油を抽出した残りかすのことで、煎皮(いりかわ)ともいい、とくに関西で人気があります。昔から食べていたようで、江戸後期に書かれた十返舎一九の『東海道中膝栗毛』でも淀川を下る舟上で、酒のさかなとして登場するほど。ころの煮付けを食べた弥次さんは「いいものでございやすね」とほめています。当時はイノシシの肉を「山くじら」と呼んでひそかに楽しんでいたくらいですから、鯨肉自体は庶民になじみのある食材だったのではないでしょうか。

 関西では和歌山県が捕鯨で有名ですが、よく食べているのは大阪のようです。大阪市中央区の鯨料理専門店「徳家」の女将、大西睦子さんによると、「昔の鯨は手軽に買えて栄養のある肉。もともと安くておいしいものを求める大阪人の気質に合う食材だったのでは」とのこと。鯨肉は血抜きが必要など、魚よりも肉の扱いに近く、独特の調理法があります。大西さんは「そのままではとても食べられそうに見えないクジラのさえずり(舌)さえ、調理の技術で驚くほどおいしい料理になります。これが食文化では」と話します。

 鯨は魚へんに京と書きます。京はみやこを表すように、大きいという意味。「うろこのない魚、海のドジョウ」などというユニークな古い記録もありますが、古代から食用として余すところなく消費されてきた一方、大きくて強い神聖な生き物として大切に思われてきた一面もあります。

 独特の漁法で、とてつもなく大きな鯨に果敢に立ち向かっていく人々の姿を描いた写真の捕鯨図は、どこか日本人と鯨の深いつながりを見せてくれるようです。

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